プレミアム付地域商品券の活用

プレミアム商品券を活かしたい

2015年4月、消費喚起のためプレミアム商品券の発行が予定されている。
地域外へ流出していた消費を地域内に留めたり
普段買わない商品を購入したりするなど一定の効果が期待される。
しかし一方では、単なるバラマキ(税金の無駄遣い)という懸念もある。
では、どうすれば地域経済(個店の収益)に活かせるかを考えてみたい。

あるべき個店の姿


まずは、あるべき個店(小さな店)の姿を描いてみる。
店の規模は小さく駐車場も狭いのに、
ひっきりなしにお客が訪れる個店の得意客に聞いてみる。
「店の主人や奥さんと話をするのが楽しみ。私もお店の邪魔にならないよう気をきかせているけどね」。

会話を楽しみに寄ってしまう―。なるほど、これは明確な来店理由である。
「店主の専門知識が深くてね。大型店の従業員は入れ替わりが激しいから商品知識や思い入れを持っている人は少ないでしょう。ここの店主は決して押しつけがましくはないのだけれど、私が知りたいことを納得できるよう説明してくれる。私の立場に立って助言してくれるから自分に合わないものを買う失敗がない」。
「知らない店ではお互いのことをわかっていないから面倒。いらっしゃいませ、いつものでよろしいですね、と商品を渡してくれるし、私が買う時期に品切れを起こさないよう配慮してくれている。好みの限定商品などは言わなくても取り置きしてくれる。かゆいところに手が届く安心感というか…」。

これらの会話のなかに小さな店(個店)に求める要素が詰まっている。
大型店では太刀打ちできない専門性や個性を持ち、
顧客の視点で助言をしてくれる。
さりげなく得意客として接していて安心感や優越感を与えるなど、
コミュニティにおけるコミュニケーションが濃厚となっている。

専門性、個性を地域商圏で成り立たせるために

専門性、個性をもう少し掘り下げてみよう。
まちの小さな薬局(15坪)の隣に
大型ドラッグストア(600坪)が出店したとする。
医薬品から健康食品、食品、日常雑貨まで揃い、
専門知識を持った従業員に相談することもできる。
駐車場は広く店内は明るい。営業時間は長く価格も安いので競合にすらならない。

個店としては撤退も選択肢だが、
この店を専門店として再出発することにした。
いまの時代はパソコン、大型テレビ、スマートフォンと
目を酷使する場面が多いため、
人々はドライアイや目の疲れなどの不快感に悩んでいる。

そこで店主自らが使用して納得できた目薬を世界中から取り揃え、
来店者とは対面で相談するという目薬の専門店、
目の疲れを癒す場というコンセプトを考えた。

店の一角には温かい蒸気で目の疲れを取る装置が置かれ、
良質の小型スピーカーから小さな音量で流れる小鳥のさえずりや
小川の流れを聴きながら仕事帰りの女性がくつろいでいる。

店主は目薬を売るだけではなく、
目の疲れを軽減する体操、食生活、
ディスプレイの設定や選び方、
目が疲れにくい姿勢などの情報を小冊子にして提供している。
地元テレビの取材をきっかけに県内の遠隔地から来店者が集まるようになった。

当店には駐車場が2台分しかないが、
客は隣のドラッグストアの駐車場に置いて来店する。
当店に立ち寄ってドラッグストアでついで買いをする人が少なくなく、
店主も「帰りにあそこで何か買ってあげて」と
客に一声かけているのでドラッグストアも駐車を快く了承している。
リニューアル後の当店に胃腸薬を買いに来る地元客もいたけれど、
お隣で買えますよと教えてあげることで地元客にも迷惑はかけていない。

大型店の集客を活かしたコバンザメ商法が成り立つのは、
店舗としての基本レベル(あいさつ、清掃、笑顔、気配り)はもちろん、
さらに踏みこんだ専門性、相談対応などの意思疎通を磨きつつ、
店の世界感と共感する顧客を集めたからである。

店のコンセプト(特に専門性と絞り込み)については、
商圏の特性と当該分野の購買力、それに個店の強みで決まる。
あとは、情報発信と仕掛け(広報)によって浸透させる。
個店の世界観を伝え、地元商圏に浸透し、
それが地域外からの顧客を呼び込み、
地域外の評判で地元もさらに認知するなど、
地元商圏の深耕と広域商圏の開拓につながる。
それを費用をかけずに発信を行うことは可能で、
それを地道に継続させていくことがブランディングとなる。

こんな店舗なら、プレミアム商品券はプラスアルファをもたらす。
しかし多くの個店は、顧客が求める「小さな店」になりきれていない。
そもそも客が来ないので何をしてもダメと諦めているし、
「うちがなくなって困るのは地元の客なのにどうして来てくれないんだ」と開き直る場合もある。

小さな店は、店の使命(存在意義)に気付いて欲しい。
使命感を持って努力する店には地域に愛着を持つ人や良識ある住民は買いに来て支えてくれる。
小さな店が地域を支え、地域が小さな店を支える構図を描ければ、
買い物弱者対策、高齢化社会や災害対応での共助を担うきっかけとなる。
「買わずに出にくい」のが個店の課題

住民が個店へ来ない大きな理由でありながら個店が気付いていないのは
「買わずに出にくい」こと。
店主は「品揃え」「価格」「駐車場」などを来店しない理由に挙げがちだが、
それらは視点を変えれば問題にはならない。

そもそもモノあまりと情報過多の時代に「なんでもあるから好きに選んでください」(量販店)では顧客は選ぶのに疲れる。
店主の世界観を反映して絞りこんだ品揃えは顧客の支持を得られる可能性が高い。
価格とは満足度と金額の対比であるから、
価格だけに目を向ける店は満足度が低いはずだ。
駐車場については不満要因ではあるけれど、満足要因ではないことは言うまでもないだろう。

「買わずに出にくい」をさらに分解すると、
どんな主張を持った店なのかわからず(テイストが違えば購買対象にならない)、
気軽に来店する動機(口実)がないからとも言える。
なじみのない店に「プレミアム商品券が使えるから来ました」という来店客はいない。
行ったことがない店であっても、その店を知っている状況と口実を作り出す必要がある。

有志の熱意で集客のしくみをつくる

プレミアム商品券の効果が疑問視されるのは、
もともと節約志向の消費性向の人がいるからだ(割引→節約)。
その人たちは、普段の店で同じように買い物をするだけ。
けれど、ここで節約できたお金は本来は使えなかった「機会」の創出であり、
生活場面の提案で価値訴求(節約→価値)の転換ができれば道は拓けるかもしれない。

いずれにせよ、働きかけなければ事態は変わらない。
小さな店の特性を理解したうえで、来店の口実をつくる仕掛け(情報発信)を行うこと、
そして特定の人の特定の場面で琴線に触れる生活提案を行うこと。
この二点がプレムアム商品券の活用対策と考える。

商品券を口実(きっかけ)にして、
商品券が終了後も続けていけるしくみをつくることができてはじめて
成果につながる可能性が出てくる。
間違っても、大手流通業者のポイントカードを地域で活用しようとは考えないこと。
あくまで商業者の有志(納得できた人だけが自己負担で)が
地域内で循環させるしくみとして仕掛けることが不可欠である。である。

研修内容

時間 : 質疑応答も含めて2時間を想定(後半は有志の協議や意見交換としても可)
日程調整 :2015年4月〜5月で調整可能な日程が数日あります
研修の構成 : 以下をご参照ください(時間、地域性によって一部を割愛)


1. 時代の背景、コモディティ化と対極にある価値観
・ 生活者と商業者の意識の差「買わずに出にくい」
・ 小さな店が好きな人がいる

2. 商品券に対する消費者の受け止め
(1)節約志向  → いつもの店で、いつもの買い物を粛々と
(2)わくわく志向  → 催事やイベント販売、情報発信する場所で買い物
  → 商品券歓迎モードでお祭り(共通のノボリやポスターだけでなく)
  → 1枚(1000円相当)で伝えられるユーモア →  心がなごみ。口コミされることも

3. 販売促進から見た顧客獲得コスト
(1)販売促進の公式 顧客1人当たり 一定期間の収益 > 販売促進費用
(2)新規顧客獲得には仕掛けと費用がかかる → 商品券をそのきっかけとする
(3)口コミで来店してもらえれば費用はかからないが、そのためには? → 世界観を打ち出す

4. 仕掛ける相手と着眼点〜来店動機をつくる〜
(1)新顧客を獲得する
・ 顔を知ってもらう → 店を知ってもらう → 「思い」を伝える
(2)継続して以後も来店してもらえる仕掛け
・ 一過性にしない仕掛け
(3)従来顧客、固定客への謝恩

5. 個店は意外に知られていない〜店と人に親近感を感じてもらう〜
(1)顔はアイコン、笑顔は視線を集める魔法の仕掛け
(2)多くの笑顔が集まれば、さらに注目アップ
(3)そこで、ひとこと伝えるメッセージを。
(4)みんなでお金を出し合って有志の自己負担で仕掛けよう(補助金さよなら。いつでもしたいから)
 → 販促コストを共有できる合同チラシの可能性、商品券から地域ポイントカードの仕掛けへ

6. 大切なこと〜個店の世界観を感じていただく〜
(1)なぜ、特定の店が広告もしないのに顧客に支持されるのか
(2)なぜ、商圏が広いのか?

(参考) 基本忘れていませんか?
(1)心理学に見る笑顔の高揚と効用〜かたちから入る〜
(2)清掃は、商売繁盛の七福神
(3)所作に隠された気配り、店の品格に憧れさえ抱く

7. みんなで意見交換〜腹に落としたうえで具体の仕掛けを考えましょう〜



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