宇宙戦艦ヤマトの音楽を10枚のCDが奏でる

「ヤマト」の音楽は、アナログ、デジタルを問わず、一枚も持っていなかった。小学校の同級生は、ことあるごとに「ヤマト」「ヤマト」だったので、それに反発する気持ちもあったのだろう。アニメの音楽という先入観もあった。しかし、古いビデオを整理していると「宇宙戦艦ヤマト」「さらば宇宙戦艦ヤマト」を録画したものが見つかった。なにげなく再生してみたら、どんどん引き込まれていく。なんだろう、これって。

ガミラスとの戦闘で勝ったものの多大の犠牲者を出し、カプセルで見送られる戦士の宇宙葬の場面、ガミラス星での死闘で相手を滅ぼしたものの、闘うことのむなしさにうちひしがれる場面。

白色彗星という強大な侵略者に愛の祈りをささげるテレサ。微笑みさえ浮かべて古代が息を引き取った雪を傍らに都市帝国の戦艦に向かう場面。

そう、そこで使われていたのはまぎれもなく音楽。だから音楽だけに向かいあってみようと思った。アマゾン書店で調べたら企画モノがあった。それが、生誕30周年記念 ETERNAL EDITION PREMIUM 宇宙戦艦ヤマト CD-BOX [Limited Edition] 。
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銀の紙箱に納められているのは、ヤマトの10枚の交響組曲集。いわゆるBGM集ではなく、映画やテレビで使われた劇中音楽をオーケストラなどを使って磨き上げた厚みのある音楽に仕上げたもの。BGM集は劇中音楽をそのものだが、交響組曲/音楽集は、音楽鑑賞のための体裁を整えたもの。主題歌は入っていないが、最初のアルバムの一曲目が「あ〜あ〜」のあの魅力的な女声スキャット(川島和子)で始まると、ヤマトのはるかな世界に連れ去られる。このアルバムは誰が聴いてもなつかしいと思うだろう。人類の運命を背負いイスカンダルをめざしたシリーズ最初の作品だった。

今回の10枚組は、1979年にLP13枚組として発売された「宇宙戦艦ヤマト大全集」(当時の価格で18,000円)を再現したもので、特典盤として「交響曲 宇宙戦艦ヤマト」のライブ録音が付いたもの。さらに、リマスタリングによる高音質化、コロンビアのTUNED CD仕様のCDプレスで音質が蘇っているという。事実、ぼくの2組のオーディオセット(ビクターHMVコンビ+パイオニア・ピュアモルトSP、オンキョーA-1VL+C-1VL+HMVマホガニー無垢SP)では、たったいま生まれたかのようにみずみずしく再現される。物価の上昇や貴重な音源を含む限定発売、リマスタリングの音質向上、忠実にLPジャケットを再現した仕様、別途解説書付など考えると21,000円(税込)は決して高くない。

こうして全十枚の交響組曲を一日一枚ずつかけてみることにし、最後に残ったものが、11枚目というべきボーナス版の「交響曲宇宙戦艦ヤマト」である。

「交響曲〜」は、ヤマトの作曲を手がけている宮川泰の作品ではなく、「ヤマト」で使われるの楽想を用いて羽田健太郎が交響曲に組み上げたもので、いわばモティーフ宮川泰、作曲羽田健太郎である。だから「交響組曲ヤマト」とはまったく別物である。四楽章からなる一時間近い大作の「交響曲ヤマト」のコンサートが行われたのは1984年。近年見つかったそのライブ音源をCDにトラックダウンしたものが、この10枚組のボーナス盤である(ほかにCD音源での発売は見当たらない)。

仕事場の蛍光灯を消し、白熱球のスポットだけにして目を閉じて聴いてみる。ビクターHMVのプリメイン、同じくCDプレイヤー、パイオニアピュアモルトのスピーカーで大きめの音量で鳴らす。この部屋は防音コンクリートに囲まれた20畳程度のフロアなので気兼ねなく聴きたいときは、自分の部屋でなく仕事部屋で聴く。

しばらく鳴らしていると、オーケストラが熱のこもった演奏をしていることに気付く。一人ひとりが全身全霊を傾けて楽器を響かせているようなのである。しかもライブでありながら乱れることなく、そのうえ優秀な録音が音楽の細部までくっきりと照らす。劇中音楽の「ヤマト」とは異なれど、まごうことなき「ヤマト」である。一時間の熱演のあと、うねりのような拍手が収録されている。

なぜ、ヤマトは不滅なのかわかった。クールに閉じこめることなく、熱い想いを自らにぶつけてみる。そしてひたむきに語りかける。そんな音楽が「宇宙戦艦ヤマト」である。

宮川泰は、昨年逝去したが、生前は自分が死んだら「ヤマト」で送ってほしいと言っていたという。ひとりの作曲家が、壮大なスペースオペラのなかに、人間との喜びや哀しみを音楽で描ききった。その軌跡がこのCDボックスに閉じこめられている。手頃な価格ではないが、昨今の音楽流通状況から、品切れすればもうプレスされることはないだろう。

演奏しているのは、ギターの木村好夫、ピアノの羽田健太郎、ヴァイオリンの徳永二男、ドラムの村上秀一、石川晶など蒼々たるメンバーが甘美な旋律を奏で、立体的にリズムを刻む。ヤマトに親しみ、管弦の響きが好きな人ならば、きっと気に入ってもらえるはずだ。

なお、なつかしい歌が聴きたいという人には、当時販売になったレコード会社の枠を越えてヤマトの主題歌が収録されたアルバムが発売されている。
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