「山もりのババたち〜脱ダム村の贈り物」を読んで
大阪で教師をしていた玄番さん夫婦とその子どもたちが徳島の木頭村に移り住んだのが1998年。木頭村の山守りとして暮らす地元の女性たち、自称ババたちの心意気を描いた玄番真紀子さんの本がこの春に出版された。

木頭村はダムに頼らないむらづくりをめざし、当時の藤田恵村長のもとで村民が一致してダム計画を止めた村。部外者にはわからない村内の葛藤やさまざまな圧力をものともせず、敢然と立ち向かったババたちのとまどいと勇気、笑いと涙、男には真似のできない行動力を、随所に挿入された漫画がユーモアを添えて伝えてくれる。

争いを嫌い平和を望んだ山里のくらしを変えたのが国によるダム建設計画。三十年にわたってダムに翻弄された木頭村であったが、(かつての村の青年たちが還暦を迎えた)20世紀末、国はようやくダム計画を中止した。

木頭村には、脱ダムのむらづくりの象徴として設立された第三セクター(株)きとうむら(当時の社長は藤田村長)がある。しかし村長選の直前に、土に還す目的でユズ皮を山林に置いたことが不法投棄とみなされて、会社と藤田村長は訴えられる。土に還して肥料とすることは昔からごく普通に行われていたこと。今風にいえば資源循環型モデルだ。

村長のイメージダウンをはかったと思われる嫌がらせであったが、双方の言い分を立てながら政治的な圧力に屈することなく「執行猶予付罰金刑」(二年間の執行猶予のあいだ、何もなければチャラです)と審判した人間味あふれる裁判官のくだりなどは、胸躍る現代版桜吹雪の名裁定。笑いと涙で支えてきたババたちが小躍りする姿が目に浮かぶようだ。

また、政治に無縁であったババたちが、自分たちのくらしを守りたいと雨のなか知事選の応援に街頭でプラカードを持つエピソードには胸が熱くなる。以上が第一章である。

しかし政争を離れた山里のくらしに目を向けると、なんと豊かなことか。第二章、第三章では、食卓を彩る四季折々の山里の幸、くらしを支える小道具が挿絵入りで紹介されている。そこには、山から恵みをもらい、人が暮らすことで山も活かされるという人と森の幸福な関係がある。それを飾らない文章で描いた温かいドキュメンタリーだ。

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山もりのババたち〜脱ダム村の贈り物」(文と漫画/玄番真紀子)凱風社 1,600円+税


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