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がけっぷち海岸にエールを寄せて

海部郡の有志を中心に、2008年から活動を開始した「がけっぷち隊」にエールを送りたいと思います。

いま、日本の山村で起こっていることを挙げてみると、地球温暖化とそれに伴う影響。少子高齢化に伴う人口減少と家庭共同体、地域共同体の崩壊、過疎化、限界集落の増加などです。もちろん山村で起こっていることに対し、都市は無縁ではありません。

これらに対し、政治は長期的な国づくりのビジョンがなく、場当たり的な政策に終始し、行政機能では各省庁の権益を越えて全体の最適化をはかる企画調整ができていません。

徳島県南部の海部郡は、理想の田舎暮らしを求める人たちにとっては、もっとも住みやすい地域かもしれません。美しい海、山、川は全国でも折り紙付きです。

しかし過疎が抱える問題は深刻です。第一次産業と公共事業がすべてともいえる海部郡では、病気になっても近くに専門家がいないという事態さえ出てきています。行政がなんとかしてくれるだろう。いえいえ、そんな全国の地域を再生させるだけのお金があるとは思えません。もう、あとがないのです。
 
そんな危機感を共有する人たちが立ち上がったのは、2008年の2月14日。室戸阿南海岸のイメージと、もうあとがないというふたつの意味を掛け合わせて「がけっぷち隊」と名付けました。

ここでは民間有志が活発に意見を出して自ら行動し、徳島県(南部総合県民局)や商工会が事務局機能や助成金申請等を行うなど、官民が力を合わせています(地域を再生していくのに、官も民もないです)。地域資源や農商工連携などの諸施策をからめながら、長期的なビジョンを持ち、できるところからやっていこうとしています。

がけっぷち隊の隊員たち

それでは、がけっぷち海岸は何を目標とするのでしょうか。単年度の目標はもちろん、3〜5年先の姿を描き、そこへ至るプロセスの設計が不可欠です。思いつきやアイデアだけでは一時的な動きはできても、未来の楽園に向かって確実に一歩ずつ進めることはできません。

多くの人たちが集まっていただくために、こころをひとつに束ねる「精神」が必要です。「がけっぷち海岸の精神(こころ)」と称してWebに掲載するとともに、一人ひとりがその信条をカードにしていつもいつもポケットに入れておきます。

信念がくじけそうになったとき、道を踏み外しそうになったとき、勇気が出なくなったとき、そんなときにこの「がけっぷち海岸の精神」を見てください。
 がけっぷち海岸は、物理的なハードルを高くしていません。例えば、農産物を使用するに当たって有機JASしか認めないとすると、参加できる人たちは限られてしまいます。

ISOなどの「規格」はときとして「たましい」のない仏のように、単に取引を有利に進める道具ととなりがち。
もっと大切なことがあるのではないでしょうか。もっと身近で当たり前でありながら、いまの世の中が見失おうとしているもの。

それが、「がけっぷち海岸の精神(こころ)」です。理念が正しければ、手段と方法は無限にあります。

経営相談に行って経営者から出てくる言葉は「うまくいく方法、儲かるやりかたを教えてくれ」です。ところが、やりかたをお教えしたとしても、一歩も前へ進んでいきません。「ほんとうにやりたい」という気持ち(動機)、使命感がないからです。

本心はこう思っています。例え、儲からなくてもいいじゃないですか? 一度きりの人生なんだから、やりたいことをやりつくしてみたらどうですか?
それでは、生活が成り立たないと怒られるかもしれません。いえいえ、ほんとうに思いが高まったとき、みちはきっと開けます。思いが道を拓くのであり、思いがしくみを発見するのです。その典型が上勝町のいろどりです。まず、精神ありき。こころがあれば、方策は見つかります。誰か助けてくれることもあるでしょう。

がけっぷち海岸のこれからを考えてみました。

(1) ここにしかないもの → 精緻なマーケティングの組み立て
徳島県南部にはここだけにしかないものがあります。例えば、あらめ、ゆこう、寒茶、ほかにも地域独特の食材があります。全国展開することきは、それらがきっかけとなるでしょう。全国に誇れるこれらの地域資源を徳島県は指定品目に入れて欲しいところです。

ただし、珍しいから売れる、いいものだから売れるのではありません。どこのどんな人にとってどんな価値を提案できるか。そのためには顧客のプロファイリングを綿密に行い、その人たちに向けて、どのようにアプローチするかのプロセス設計が不可欠です。緻密なプロセスに漂うのは「感性」です。幸いにも、がけっぷち隊の有志はその知恵と熱意をお持ちです。

(2) 顔が見える関係 → 地域を巻き込む
産直市が大流行です。でも産直市で売られているものが、すべて安心・安全とは限りません。むしろ、安心・安全に無頓着な産直市も少なくありません。
それでも産直市が人気なのは、鮮度がいいからです。前日採れたもの、場合によってはその日の朝に採れたものが並ぶことだって少なくありません。これは流通を通すと困難なことです。人が生きていく日々の食卓にめずらしいものは要りませんが、安心して食べられるものは必要です。

自分の家族が食べる野菜に、農薬をたっぷり施す農家はありません。がけっぷち海岸では、「自分の家族に食べさせたいものを提供する」ことをうたっています。すなわち地産地消です。

ところが、国の農業政策はここでも矛盾しています。地産地消とは、流通ベースとは限りません。出荷を前提としない(自家用栽培)農家の人たちに、少し余分につくっていただき、それを地域で分け合うという考え方があります。いまだってそうしているはずです。こうした零細農家(兼業農家)がかなりの割合を占めているのではないでしょうか?

国土の荒廃を防ぎ、人々の健康を維持し、農家の人たちの所得と生きがい(地域の人たちから「ありがとう」といわれることぐらいうれしいことはないでしょう)につながる施策であって、地産地消、安心、安全、地域共同体再生、生きがいづくりなどの視点で、政策を統合的に組み立てて欲しいところです。食育に力を入れている小浜市では、地場産品の農産物を給食に出していますが、ほとんどが自家栽培の零細農家の人たちです。

一方で、国の農業施策は大規模農業を奨励しています。担い手不足の解消に建設業などからの新分野進出(法人経営によるPDCAサイクルの導入)を想定していることは理解できるのですが、施策として零細農家を救済することを積極的に行わないのなら、地域で零細農家の人たちを応援するしくみが必要でしょう。

がけっぷち海岸は、先進的なマーケティングで地域に勇気を与える(1)のような取り組みと、地域の大半をまきこんでいく(2)の取り組みとに大別されるでしょう。後者は、巻き込み(参画)と啓発による地道で息の長い活動となるでしょう。有志の知恵で切りひらいたマーケティングで、生産などの実の部分を地域の多くの人たちが支え合うという図式も考えられます。

「がけっぷち海岸」は始まったばかりです。この取り組みによって、人々に「やればできるんだ」の思いを持っていただけたらと思います。そして、全国各地の同じような課題を持つ地域のモデルとなればと願っています。

(2008年6月 中小企業診断士 平井 吉信)
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