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ソフトな(道路に依存しない)南阿波(徳島県南)の発展を考える
 高速道路(または高規格道路)を県南にという声は少なくない。はじめに賛成ありき、反対ありきではなく、本質に立ち返って考えてみよう。なお、ここでの県南は、ひとつの経済圏と考えられる海部郡6町+高知県東洋町の7つの自治体を指している。

参考 → 四国縦貫自動車道 小松島〜阿南間についての知事記者会見(2003.12.25)


1. 生活道路としての意味

 大雨などの災害時に国道55号線の阿南市福井町から日和佐町までが通行禁止となることがある。阿南市以南に伸びるのは実質的にこの道だけなので困る。だから地域の生活道路としての位置付けがある。

 大雨だからといって会社を休むわけには行かない、配達を止めるわけにはいかない。国道が通行止めとなったとき、一般車両はどうしているのか?実は国道よりもずっと危険な海沿いの崖を走る狭い道(県道26号由岐大西線)に迂回している。ここはいつ崖崩れが起こっても不思議ではない。国道が通行止めとなってもこの県道はなぜか通行止めとならないことが多い。(地図

 国道は国土交通省の管理である。責任を問われると国が困ることはわかるが、国道の運用基準の見直しをすることはできないものだろうか。その地域を走る国道55号線の全線が災害時に危険なわけではないので、危険が想定される箇所の補強をするなどが必要である。

 生活道としての緊急性を考えるとき、救急医療の態勢づくりが課題である。例えば、小松島市の徳島赤十字病院は全国有数の患者満足度の高い医療施設として知られるが、全国でも20数カ所しかない「地域医療支援病院」の認定を受けており、広域(高知県東部〜徳島県全域〜淡路島付近)の緊急医療を受け持つ貴重な医療施設である(余談ではあるが、有志が手弁当で日赤を核とした地域活性化を話し合っている)。

 また特殊な傷害としてダイバーがかかる潜水病がある。県南ではスクーバダイビングが行われていることから、潜水病の重度患者は一刻も早く再圧タンクを持つ治療施設へと運ばなければならない。ところがその施設は四国では坂出にしかない。場合によっては海上自衛隊等とも連絡を取り合いながら、緊急に空輸できるしくみを話し合っておく必要がある。

 どんな危険が潜在しているか、その場合はどのようなシナリオが想定されるか、それは誰がどのような基準で意思決定するか、連携するためにどんなしくみが必要か、伝達手段は?
 このように、道路に頼らずとも危機管理のソフトを練り上げることで緊急時に対処できる。


2. 普段の生活道としての意味

 ぼくは、県南には頻繁に足を運ぶ。高校のときから自転車で通っていたほどで、海部郡を訪問した回数は千回を越える。海部郡のすばらしい可能性を身体で感じており、地域づくりのヒントとなる報告書を書いた(「南阿波の新しい波〜エコツーリズムによる地域づくり」。県立図書館や国立図書館にも蔵書されている)。

 また十数年前から10〜20人ぐらいの人たちを県内外から集めて県南のすばらしさを体感してもらうため、案内している。ボランティアによるエコツーリズムの先駆けである。近年ではインターネットを広報手段として活用している。

 県南を走るとき困惑することがある。それは、車の流れを乱す遅い車が多いということ。時速60〜70キロで流れているときに、1台だけ40〜50キロの車がいると車が数珠繋ぎになる。これでは効率的な道路の使用とは言えず、ドライバーのイライラ等で接触事故の可能性が増す。
 所用で急いでいるときに、肝心のノロノロ運転の車が道を譲ってくれない。たいていはそのことに気付かない(悪意がない)地元の人たちと思われるのだけれど、まるで世の中に自分の車しかいないかのような自己中心の運転は地域のイメージダウンであり、いただけない。

 そこで、高規格道路という声が上がるのだが、それよりも、崖崩れの防止策も兼ねて追い越し車線を増設するとともに、地域の運転者にマナー向上を啓発していくしかない。高速道路の是非を議論する時間があるなら、今すぐできることから始めたい。


3. 商業用道路(商圏移動)としての意味

 海部郡内の人口は3万人弱で競争が少ない。郡内の事業所をいくつか訪れた感触では、一定の市場で寡占化できた企業や商店では、競合がないため、都市部では望めない手堅い商売ができている。例えば海部郡内の一部のコンビニは屈指の繁盛店といわれているし、県内にいくつか出店して事業を行っている経営者は、県南支店の粗利益がもっとも大きいと打ち明ける。

 商売繁盛の理由は、地域寡占化だけではなく、交流人口が無視できない。
 一例として、宍喰町の道の駅ししくい温泉における2001年の施設利用者は12万8千人、その隣りのホテルリビエラししくいの利用者数は7万7千人であることから、トイレ利用や駐車場利用を含めると、この施設だけで年間30万人以上が訪れている可能性が高い。

「徳島におけるサーファー実態アンケート調査結果」(財団法人とくしま地域政策研究所、平成11年12月)では、徳島沿岸でのサーフィンの経済効果を算出しているが、それによると、サーファーが1年間に費やす交通費、宿泊費、その他経費の合計を20億円としている。これには、鳴門大橋通行利用や県北部沿岸での経済効果も含まれているが、県南においても相当大きな額であることは想像できる。

 さらにいくつかの参考数字を挙げてみる。平成9年度の高知県生見海岸のサーファーの数は、約7万人であった(東洋町観光課調査)。1999年の「徳島県南サーフィン実態調査」(財団法人中小企業診断協会徳島県支部)では、サーファーが1日当たりの予算は2,143円であったので、単純に人数をかけ算をすると、生見海岸だけでも直接経済効果は1億5千万円に達する。
 また、海を守るために年間いくらの年会費なら出すかをサーファーに尋ねたところ3,661円であった。この数字を海の環境保全に対する支払意思額とみなした場合、県南のサーファー数を20万人と仮定すれば(簡便な算出法ではあるが)、県南のサーフィンのできる海の価値は約7億円となる。
 
このように、県南は、サーフィンや釣り、アウトドア、それに四国巡礼客などの流入人口がもたらす経済効果の恩恵を受けているのは間違いない。とりわけ、ガソリンスタンド、食料品店やスーパー、コンビニなどの業種である。しかし、車中泊が少なくないサーファーは有料道路は使わないし、一部の海部ファンのなかには、観光客が大勢来ては困るという意見も聞かれる。

 明石〜鳴門を結ぶ本四架橋ができてから、徳島市の中心商店街の商店街から若い人たちの姿が消えた。(社)中小企業診断協会徳島県支部が2001年に行った調査では、65%の買い回り客が京阪神に流れている。中心市街地の商店街の役員に話を聞いても同様だ。特に京阪神の百貨店等でバーゲンが行われるときに流出が顕著だという。
 このように橋ができて路線バスが頻繁に運行されたことで、徳島から京阪神への買い物ツアー客が急増し、市内の商店街はにぎわいを失っている。
 また運送業などは京阪神の業者の仕掛ける価格競争で経営体質が相当悪化するなど、経済界からは本四道路を歓迎する声はあまり聞こえてこない。

 現在、競合がなく、都市部より利潤を厚く設定している海部郡内の商店は、高規格道路ができることによって相当徳島市内などへ流出する客が増えることを覚悟しなければならない。
 しかし地域の自治体、商工会、商工業者の大半に意見を求めてみると、(環境問題に深い関心を寄せている人でも)高規格道路は必要との認識が大半である。とはいえ、道路推進の声は上げやすいが、反対は言いにくい雰囲気があることは否めない。そのようななかで地域外の人が道路の是非を声高に叫んでも、県南の人たちの耳には決して心地よくは響かない。大切なのは、判断できる客観的な材料を行政が提供し、そのうえで地域の人たちに時間をかけて判断していただくことである。
 成功のカギは、行政が客観的な判断材料をどんな基準でどのように集めるのかという理論的な面と、それをどんな手段でわかりやすく提示するのかというプレゼンテーションの配慮である。


4. 観光道路としての意味
 
 道路が曲がっているからくたびれるという声は少なくない。しかし、2車線で渋滞がほとんどなく風光明媚な景観を走り抜ける国道55線沿線には、ダムのない清流をいくつも育み、またそこにたくさんの動植物が生息している。そんな海部郡のイメージ調査を行ったのが次図である。

 (社)中小企業診断協会徳島県支部では、海部郡内の宿泊交流施設、徳島県企画調整部の協力を得て、海部郡の活性化に向けての報告書「南阿波海部の新しい波〜エコツーリズムによる地域づくり」(1999年1月)を作成した。その際に、遊遊NASAを含め、海部郡内の宿泊施設で訪問者のアンケート調査を行った。得られた回数数は215であった。

(1)海部郡のイメージは?
 徳島県南地域で考えられるイメージ(具体的な単語や抽象的な形容詞など)を列挙し、自由に選択してもらったのがこの設問である(複数回答)。

「青い海」がイメージ

 「青い海」(71.2%)は、10人7人以上が感じる海部郡のイメージである。続いて過半数が「海の幸」(51.2%)を挙げた。「ゆったり」(46.0%)、「緑が多い」(42.3%)も半数近くが指摘している。「静けさ」(31.6%)、「暖かい」(29.8 %)については3人に1人程度、「おだやかさ」(24.7%)、「ドライブ」(23.7%)は5人に1人程度がイメージを喚起している。次に「遠い」(23.7%)という否定的な表現が顔を出すが、再び「安らぎ」(19.5%)、「漁業」(19.5%)、「親切」(19.5%)、「南国情緒」(19.5%)、「清流」(19.1%)、「人情」(18.1%)、「おおらか」(16.7%)と肯定的な表現が続く。
次に、ある共通イメージで単語のグループ化を行い、その集計を試みてみた。

1)自然環境要素
  • 海や川に関するもの・・・「青い海」「海の幸」「漁業」「清流」「黒潮」「いい波」「珊瑚礁」の合計419 で、この括り方は全回答数(複数回答の合計1,231 )の34.0 %に相当する。
  • 気候に関するもの・・・「暖かい」「おだやかさ」「南国情緒」「黒潮」のグループで合計192 (15.6%)。同じく全回答数の1/6 以上である。
  • 山や緑に関するイメージ・・・「緑が多い」「清流」「桃源郷」の合計138 (11.2%)で、全回答数の1/10以上に当たる。
2)社会環境要素
  • 情感・・・「ゆったり」「静けさ」「おだやかさ」「安らぎ」「おおらか」など癒しの要素を感じさせる言葉で括ってみると、合計298 (24.2%)で、全回答数の1/5 に相当する。
  • 積極的願望や行為・・・「ドライブ」「アウトドア」「住んでみたい」「長期滞在」の合計99(8.0%)で、全回答数の1/12が積極的な活動をイメージしている。
  • 地域社会の肯定的評価・・・「親切」「人情」「おおらか」「住んでみたい」「芸術家の住む町」の合計135 (11.0%)で、全回答数の1/10以上が地域性を肯定している。
  • 地域社会の否定的評価・・・「遠い」「不便」「過疎」「保守的」「しがらみ」「排他的」の合計127 (10.3%)で、全回答数の1/10が地域の嫌な面を指摘している。

 年齢層別に切ってみたところ、「遠い」「不便」「過疎」といった否定的な評価が30代でもっとも高くなる。40代、50代となるにつれて段々と低くなり、20代と60代以上がもっとも低くなる。統計の有意水準を判定してみないと何とも言えないが、小さな子どもを連れた家族行動に何か支障をきたす要素があるのかもしれない。宿泊施設や観光施設において、小さな子ども、家族連れへの配慮がなされているかを検討してみたい。
 30代では、「ドライブ」と「アウトドア」の順位がもっとも高くなるが、やはり家族中心のレジャーである。
 60代でもっとも高くなる「人情」は、この世代の接客にヒントとなるものである。20代で「漁業」のイメージがもっとも高まることにも注意する必要がある。

(3)知られざる芸術家の住む町

 海部郡にはその風土や自然に共感した芸術家が少なからず住んでいるが、「芸術家の住む町」については、ほとんど知られていないことがわかった。宍喰町に移住してきた陶芸家の梅田純一さんは、21歳の頃、1年をかけて徒歩で全国を旅した。そのとき「全国で田舎暮らしに適した究極のエリアは、室戸岬から半径40キロの地域だ」と思い、清流野根川を見下ろす小学校跡の高台に住んでいる。夏ならば、地元の人が差し入れたアユを七輪で焼いてビールを飲む。まさに桃源郷のような場所である。梅田さんは制作した数千点の作品を年数回の個展ですべて売りさばく人気作家である。
 国内外の川を旅するカヌーエッセイストの野田知佑さんは、終の棲家と決めて日和佐町に移り住んだ。
 このように、海部に移り住んだサーファー、植物の好きな人、作家、天体観測家など、それぞれの信念に従って地道に活動を続けている人がいる。そうした志を持った人たちが海部郡に住んでいることは知られていない。

(4)海部郡にあったらいいもの

 
(5)物理的な距離を縮めるのは高速道路 しかし心理的な距離を縮めるものは?

 「遠い」「不便」「過疎」などの否定的なイメージからか、3人に1人以上の観光客が挙げたものが「高速道路・自動車道」(34.4%)である。地域の人々にとっても観光客が増える経済効果のほかに、徳島方面への時間を短縮する生活道路としての意義が大きい。高規格道路の完成後は地元商店街から購買力が流出し、生活者に受け入れられない事業所の淘汰を促すかもしれないが、それを補うのが観光客の流入による「交流人口」の増大である。
 ただし高規格道路の完成には時間がかかるし不確定要素も多い。「なければ不満を感じる」ものが、「あった」ところで「満足」につながるとは限らない。例えば、仕事の代償に給料をくれなければ従業員は不満に思うが、給料をもらったところで満足するとは限らない。満足を創りだすために道路を待つだけではなく、地道に「顧客満足地域づくり」を実践しながら海部郡のファンを増やしたい。道路が狭くアクセスの劣悪な四万十川に人が集まる様子を見ていると、地域の魅力づくりと情報発信に優る方法はないことがわかる。
 実際に黄金連休中に四万十川を何度か訪れたが、四万十川がもっとも四万十川らしい下流の江川崎から口屋内地区では道路が狭いため車の対抗がままならない。そのため渋滞や事故が発生している。それでも観光客は後を絶たない。一般国道を走れば徳島から7〜8時間。そんな時間距離の場所になぜ人が集まるのかを実際に訪れて体感して欲しい。
 
(6)味わいたい地元の市

 「フリーマーケットや物産市」(32.1%)は、3人に1人が要望する項目である。訪問者は、売手の話に耳を傾けたり手作りの食品を試食しながら市の雰囲気を味わえる。買い物という行為を通じて、地域の人たちと顔が見える交流を訪問者が望んでいる証といえる。
 同じ徳島県の石井町では、「百姓一」と称して、地元の農家が生鮮野菜の直販を行い、2001年には年商2億円に達した。徳島市近郊という立地条件を海部郡と比べることはできないにしても、対話を通じて直接生活者の声にふれることは、生産者の意識改革を促すものとなる。

(7)満天の星空への憧れ

 ほぼ3人に1人が「星空観察・天文台」(32.1%)を挙げている。自由回答でも星空の美しさを愛でる回答が目立った。すでに国民宿舎水床荘(宍喰町)の屋上には天文台が設置され、宿泊客に星野散歩を体験してもらっているし、天体観測家有志による私設の天文台も海部川中流域の山中に設置されている。海に面して東南が開けた海部郡の地形は、天体観望にうってつけといえる。

 このことを実証したのが、1998年11月の「ジャコビニ流星群」の極大日である。どこから聞きつけたか、平日の深夜〜早朝にもかかわらず県内外の車(関西、中国地方もかなりみかけた)が南阿波サンラインを占拠した(この道路が始まって以来の「事件」ではないだろうか)。都会では、人工の光源が夜空に反映してもはや天の川は見られなくなった。このことを「光害」と呼ぶが、海部郡には光害がないことを聞きつけて県外から大挙して訪れたのである。

 人々の美しい星空に対する憧憬をどのように受けとめるか、星が見えることや青い海があることは過疎の裏返しともいえるが、経済競争に出遅れたことがかえって幸いとなり、最後尾を走っていたランナーが(自然志向というルール改正で)いつのまにか先頭を走っていた。それが南四国ではないだろうか。

 同じ高知県のホエールウォッチングで知られる大方町には広大な砂浜がある。平坦な砂浜の眼前に太平洋がどこまでも広がっている。ここには有名な砂浜美術館がある。といっても建物はない。あるのは、全国から応募されたTシャツが渚の上で5月の薫風に舞っているだけである。アメリカの芸術家コミュニティとして知られるカーメルには、信号やネオンがない。そのことで夜の静寂を守っている。海部郡にはこうした発想が必要ではないか。

(7)観光の変遷

 観光は大型バスによる団体旅行の時代は終わった。特に徳島県南のような癒しにあふれた土地では団体旅行よりも、個人や親しい友人との旅行にぴったりである。だから大型バスの融通や一度に大勢の宿泊客を止めることができないことに一喜一憂することもないし、旅行代理店参りに時間を割く必要もない。大切なのは、海部郡内で10〜15名程度までの少人数を受け入れるツアーを数多く立ち上げることである。そこでは、地元の人がホストとなって訪問者に地域の風土を密度濃く体感していただくという形態のパッケージとなる。


[まとめ]

 地域活性化に絞ってそのあり方を考えてみた場合、道路整備とは別に地域が活性化させるしくみが大切である。しかもそれが地元からわき起こるとき、ほんとうの意味で地域主権を活かせる未来が見えてくる。

厳しい県南の財政事情

 道路の問題は、経済効果のみならず、財政や環境の視点を加えて多面的に判断されるべきである。
 海部郡6町でそれぞれの町の経営状況を見てみると、経常収支比率が、いずれも9割近く(由岐町は9割を越える)に達しており、年間予算の1割程度しか自己裁量の余地がないことを示している。

*経常収支比率…町の年間収入に対して、人件費や公債費といった必ず支払う金額=経常コストがどのぐらいの割合になっているかを示すもの。この値が大きくなればなるほど、町で自由に使える予算が少なくなることを意味する。

 いっぽうで公債費比率も良くない。この値が15%を越えると黄信号だが、海部郡のどの町も越えており、特に宍喰町では公債費比率が23%(赤信号を越えている)に達している。

*公債費比率…町の年間予算に占める町で起債した借入金の返済額の割合。

 地域の公共事業の場合、農漁村整備に顕著に見られるのは、国土整備の公平さを理由にすることである。都市部では十分なインフラ整備が行われたから今度は自分たちの番という意識である。

 例えば後継者がいない農漁村で、棚田の圃場整備や漁港の整備に資金投下することを地元(一部のとりわけ発言力の強い人など)が歓迎する傾向が強い。そのことで、耕耘機が入らなかった田に機械が入るようになったとか、より大きな船が停泊できるようになったなどの利点はあるかもしれないが、採算性が劇的に改善されるわけではないし、後継者が生まれるわけでもない。
 話を聞いてみると、「必要かどうかはわからん。しかしわしらのことに気(税金)を使ってくれることがうれしい」という。これではますます中央に従属する地方という構図から逃れられない。

情報発信とコミュニケーション

 地域はもっと国土保全における役割や地産地消をアピールするなど、自らの積極的な情報発信とコミュニケーションが必要だ。今すぐに自分たちができることから始めればいい。地域の浮沈をかけて大きな大砲を打つ時代ではなく、小さな矢を数多く放ち(=テストマーケティング)、試行錯誤のなかから正解を見出していく、もっとしなやかでもっと粘り強い根っこのある活動が求められている。
 そんな地域を支える政治家は、国や官僚の機嫌を取ったり予算獲得を手柄にすることなく、生活者の視線を持ち、ともに汗を流す。そんな人を育てて盛り立てていくべきだ。誇り高き海部(あまべ)の民の精神は、いまも海部の人々に生きていると信じたい。

求められる現実的な判断

 費用対効果を重視しはじめた国の予算編成が厳しくなってきた現状で、県南への道路伸張は困難になっていると考えるのが現実的な判断である。道路計画の中止とともに夢がなくなる海部郡ではなく、道路に頼らないソフトを地域から活性化させる。そうすれば、道路ができたときには、一段と活用の効果が高まる。道路はないと見切ったところから可能性が始まるのではないか。

 もし地域のソフト事業が活発に行われるようになれば、道路が整備されていないことによるデメリットはほとんど解消しているだろう。そればかりか、新たな魅力を付け加えることによって、観光客はもちろん、若者の地元滞留率、Iターン者が増加して地域に活気が戻る。

 マーケティングでは、その商品(地域)に魅力があれば、販促(高速道路)によって売上が上がるが、商品(地域)に魅力がなければ、広告宣伝によって損失が増える。
 これは、「つまらなかった」「自然が豊かと聞いてきたのに期待はずれ」などの悪い印象が口コミで広がるためであり、広告宣伝をかければかけるほどアンチファンが増えるという循環に陥る。 これは、地域ブランドの形成(地域外の生活者からみたイメージづくり)にとって大きな痛手となる。
 経済的には地元経済圏から購買力の流出が増えることは確実である。このことは、地元生活者にとっては商品や価格に対する選択の余地が増える利点があるが、地元商工業者にとってはマイナスとなる。
 

「何をしてくれる」から「これならできる」〜地域主権と生活者の意識

 これまで見てきたように、道路は何をもたらすのか、現状のままではどうなるのか(現状分析)、どんな利点、不利な点が出てくるか(仮説)、それに対して何をすればいいのか(解決策)を考えることなく、道路の是非を考えることはできない。
 県南に必要なのは、「何をしてくれる」の住民意識から、一人ひとりが「これをしたい」「これならできる」を持ち寄ることだ。都市との交流を通じた外からの新しい血、従来の枠組みを越えた産業の連携、子どもと熟年者の交流など、活発に意見を出し合い実践していくことで地域の宝に気付いていければいい。人は変えることはできないが、自分は変わることはできる。この土地に根っこを下ろすことを決意した日から、新しい海部の風景が見えてくる。

 必要なのはヒトだ。それも人材育成ではなく、人材を引き抜くこと。そしてその人たちにしくみづくりを丸投げしてみる。いいしくみは、いい人からしか生まれない。最初に枠組み(予算、組織)ありきではない。まず人ありき。

 南阿波海部は、すばらしい地域であることを確信している。