棚田の学校は雲の上(上勝町市宇集落と勝浦川流域ネットワークの活動)
1. 上勝町市宇集落〜棚田の学校は雲の上

上勝町には不思議な集落がある。川沿いには家が一軒もないが、空に突き抜ける急峻な坂道を登っていくと突然視界が開けます。点在する家屋、小さな棚田が連なる斜面とそこに接する森…天空の城が現れたのかと思いました。ここは尾根沿いの市宇という集落です。

今日は棚田の学校の日。田植えをするために徳島市などからやってきた数人が集落の人とともに定規を使って手で苗を植えていきます。
 裸足で泥田を泳ぎながら後ずさりしていくと、たちまち苗が整列していきます。田んぼの形もいびつなら、植え方もいびつ。しかし稲はそんなことにお構いなく力強く成長していきます。地元の人は「まちの人に来てもらってよかった」と言ってくれるのですが、ほんとうは自分たちだけでやったほうが早いのです。

それでも、まち人の訪問を心から待っていてくれます。あぜに生えているウドやフキ、よもぎを使ってみんなで昼食を作ります。食卓には雑穀や山菜をあしらった料理が並びます。豊富なミネラルと食物繊維の長寿食ですが、これが普段の食事というのです。

風が吹き抜ける天空の集落で暮らす人たち。里山にまもなく初夏が訪れます。その頃、棚田の学校は草取りとなるのです。   

2. 棚田の学校はどんなことする?

棚田の学校は、単なる農作業体験ではありません。また、お客様として来ていただくイベントでもありません。そこに参加する人たち、地元も都市からの訪問者も区別なくともにつくっていく作業です。

上勝町には、美しい棚田を持つ集落がいくつかあります。上流から、美しい円形棚田を持つ八重地(やえじ)、棚田の学校の舞台となっている「天上の楽園」ともいわれる市宇(いちう)、背景に雑木の山犬嶽という里山を従え、ダイナミックな景観が拡がる樫原(かしはら)、役場の近くでは横峰の棚田などが知られています。

市宇では、1998年に農水省の補助を受けて、杉の香りのする「活動センター」という建物が棚田の合間につくられました。そこから南の斜面を見下ろせば、四季折々の表情をたたえた市宇の棚田が展開します。ここを舞台に活動を行っているのが、地元市宇と勝浦川流域ネットワークが行っている「棚田の学校」。 集落に住む植松ご夫妻をはじめ地区の人々のご尽力で毎回少ないながら、心洗われるひとときを過ごしています。

棚田の学校では、人と森が渾然一体となった里山の暮らしを体感していただくこと、棚田や里山が果たしている役割に思いをはせていただくことがねらいです。しかしそれは決して机上の学問で得られるものでも、押しつけがましく教え込まれるものでもないと思います。自ら足を運んでその風土を身体で感じていただく、だから体感なのです。

その昔、四国では山間部の主要交通路は尾根沿いでした。だから、旭川(勝浦川の大きな支流)に沿ったところよりはるかに高い尾根周辺に集落が点在しています。一度訪れたら、やみつくになりそうな高度感、パノラマ感とともに、風が違うことに気付きます。まさに天上の楽園の形容そのままです。

棚田の学校は、みんながつくっていく物語。だから廉価な参加費を設定しています。参加される方がすべて主宰者です。

棚田の役割って? 里山の役割って? もちろん本に出ています。しかし自然に寄り添ってその恵みをいただく暮らしを心と体で感じることからはじめてみませんか?

勝浦川流域ネットワーク事務局まで「棚田の学校情報希望」とお送りくだされば、随時電子メールでお送りいたします。