「ビオトープの学校」に対する事務局長個人の見解
ビオトープの学校〜熱意と手弁当で切り開く

勝浦川流域ネットワークでは、棚田の学校、里山の学校と並んで、ビオトープの学校を2003年の柱として活動することになりました。

ビオトープとは、生物が棲める空間を指すドイツ語で、本来は地球上すべてがビオトープであると個人的には思っています。これがいつのまにか「土を掘り返してシートを敷いて池をつくること」のような意味で用いられていることも少なくありません。

言葉の定義が大切と思うのは、学術的な知見からではなく、実際にどのようにイメージされているかを共通理解としておきたいからです。例えば、徳島県では、ビオトープアドバイザ派遣事業というのを実施しています。ビオトープをつくる際に、登録されたアドバイザを現地に派遣することができるというもので、専門家の派遣費用は県が負担するjというものです。

この事業を聞いて、ビオトープの学校
に活用できるのではないかとぼくたちは考えました。ところが県のビオトープ施策は、座学の講義は対象外とのこと。つまりビオトープづくりを施工する現地に派遣する事業のようです。ビオトープをつくることが目的ではなく、生き物が棲める空間の大切さを知っていただき、実践することの意義と知識をできるだけ多くの人に身に付けていただくこと(=啓発)が最初の一歩であると思ったのです。

ビオトープは、どんどん変移していく生態系であり、コンクリートの構造物のように一定の姿をとどめることはありません。だから、その地域に住んでいる人でなければ、長期間(例えば集落が管理する水路のように数十年〜百年)観察し保全することはできません。

さらに、ビオトープは、点より線、線よりは面と展開していくことが望ましいのですが、国土のほとんどが私有地です。ということは、地域の生活者がビオトープを管理する必要があるということです。つまりそこにいる生活者が生態系の役割、自然とヒトの暮らしの関わりを理解し、自分にできることを考え始めたときからビオトープへの関わりは始まります。

「専門家や行政がつくったビオトープを地域に与える」という視点から抜け出したいのです。これは、日本のODAがハコモノ・キカイモノ中心で、現地人でそれを扱えない、どう活用してよいかわからないため、有効に使われることなく錆び付いているというのと同じですね。

もしビオトープづくりを行政がするのなら、企画の段階から地域住民とともに協議する必要があります。また、ビオトープをつくるには工事が必要という発想からも抜け出したい。今あるなにげない環境のなかにビオトープ的な価値を見出すことのほうが、ビオトープをつくることよりも、もっと大切なことではないのでしょうか。

いずれにしても、ビオトープが必要なのは、生態系の価値を知ること、それを保全することがヒトの暮らしに直接関わる重要なことを認識することにほかなりません。メダカやトンボ、森などの身近な自然は、誰の目にも見えます。そんな暮らしとの直結感がビオトープのおもしろさかもしれません。

ビオトープをどう捉えるか。ぼくは、ヒトの暮らしと密接に結びついている自然、そこに棲む生き物の営みと環境との関わりに目を向けることで、ヒトが自然とどう向かい合うかを知るきっかけとなればと考えます。それが持続的な社会への足がかりとなると思うのです。

ところが人々は自然から遠ざかっています。植林された一面の杉を見て「豊かな緑」と感じる人がいます。教師をめざす大学生にニワトリの絵を描かせると、足を4本描く学生が少なからずいる、という事態をどう受け止めるのでしょうか。

行政としては、専門家を何人派遣した。その結果、ビオトープが県下に何カ所増えた、というのは施策評価に便利です。しかし、こうしたお仕着せビオトープは何の意味も持たず、環境のお荷物となることは目に見えています。子どもの環境教育という味付けを施しても卒業とともに放置されるだけ。トンボの棲む池を行政があちこちでつくったとしても、やがて「ボウフラが湧くから埋め立てて」という苦情が来て税金の無駄遣いに終わるかもしれません。ビオトープ本来の「地域の人の手で育てつないでいく」趣旨からも程遠いのです。

これまで活動してきたなかで、地域に住む一人ひとりの生活者に直接語りかけていく、ビオトープと一般生活者との接点が求められていると感じます。それも専門的な知識や学術的な切り口ではない、生活者のためのビオトープという視点。ビオトープを知っていただき、ビオトープを地域の人たちの自主的な管理や意思でつくっていこうと思っていただければ幸いです。

勝浦川流域ネットワークでは、そんなビオトープづくりをめざして活動を続けています。とはいえ、年間予算20万円程度の団体です。講師の方々には手弁当ということでお願いしてはいますが、いずれ資力は底を付くかもしれません。行政の下請機関でないと考えるため、課税が強化される見通しのNPO法人化も当分は見合わせるかもしれません(事務局長個人の見解)。それでも共感していただける人々の熱意によって運営していきたいと考えています(もちろんご寄付やカンパは歓迎です。収支はすべて公開します)。

ビオトープの学校、滑り出しは順調です。次回は4月19日に上勝町福川のクヌギに囲まれた「里山の学校」で行います。子ども向けに、土中の虫を見せるあっと驚く企画をはじめ、周辺の山菜を味わうことも企画しています。お楽しみに。