異業種にヒントがある〜漁協がスクーバダイビングを実施するねらい
〜松田猛司さんの講演から

松田猛司氏「日本のダイビング業界はどうあるべきか」
(1999年8月、19時30分〜22時 海南町まぜのおか)
 

 北海道の炭鉱で生まれ、12歳で初めて海を見た。バブル後は大手資本が手を引いてゴーストタウンになった。観光客が大挙して訪れたガラパゴスでは磯焼けのため、イグアナの食料となる海草がなくなり、今ではゴミを漁っている始末……。これではいけないと、地元にお金が落ち、それが貫流するリゾートをめざして、フィリピンの無人島、和歌山県のすさみ町、小笠原の母島(99年4月から)でスクーバダイビング事業を始めた。

 事業を始める前に、まず海を見て「見せる商品」、すなわち魚がいるかどうかを調べる。ダイビング事業は初期投資が比較的少なくて済む。タンクの原材料は空気であるし、漁船は地元の漁師の船をそのまま使いチャーター料を払う。        
 ここでは、和歌山県すさみ(http://www.aikis.or.jp/3〜noah-s)の事例を説明する。

 和歌山県は有数のイセエビ漁の漁獲を誇ってきたため、その漁場である沿岸の岩礁をダイビングに開放することには抵抗があった。平成6年度に地区毎の説明会を開き、平成7年11月1日に「(株)ノアすさみ」を設立、平成8年1月15日から営業を開始した。

 資本金2,000 万円のうち、漁協が51%、残りの大半が漁協組合員となっている。漁村地域活性化事業として和歌山県とすさみ町から総額3,500 万円の助成を得て、コンプレッサー(県が半額補助)、シャワー室(町)、タンク100 本(自前)、船(組合員の船)、その他に保管施設や管理事務所を整備した。
 チャーター船は漁師の船であるが、港から比較的近いため、高齢の漁師でも操船が苦にならない。あいうえお順の輪番制であるが、乗客数によって不公平が出ないよう、一月のチャーター料をプールしておいて、出動回数に応じて分配している。このようにすれば、乗客数に係わらず1チャータ(手間、燃料代は同じ)当たりの収入に不公平が出ないようになっている。


 一方、小笠原島では、コンプレッサー、シャワー、タンク、船などを100 %東京都が出資した。母島の400 人の居住者すべてが株主となることで、地域活性化の大義名分が付いたことによる。資金的な余裕のない人のために3人で1株持つこともできる。


 ノアすさみの特徴として、
・ 専門的な立場からダイバーに魅力あるポイントかどうかが吟味されたこと。
・ 町、地域全体のシステムとして構築されている。
・ 収益がすべて地域にとどまるため、再投資が行いやすい。JR見老津駅の駅舎に「南紀枯木灘海洋生物研究所」「ノアステーション」を開設した。これは、ノアすさみが運営費を全額拠出している。ここでは地元の魚が展示されている。地元の漁師から魚をもらって何日間が飼育してまた海へ戻している。そのため費用がかからない。
・ ダイビングの監視と漁場の保全が同時に行える。密漁が増えているのは、むしろダイビング禁止区域である。
・ ダイビングの時期(5月〜10月)とイセエビ漁の期間(9月中旬から4月末まで)は、ほとんど競合しない。
・ 漁協の収入は、施設賃貸料(定額)、環境保全協力金(300 円)、タンク使用料(300 円)、その他手数料となっている。
・ 組合員は、チャーター漁船の使用料(利用者1名当たり1,750 円、歩金4%を漁協へ払う。

 ノアの手法として、
・ コーポラティブ方式(地元の人すべてが株主)である。
・ 最終的には行政に頼らない自活型。
・ 自然保護に経済活動をからませ、両者をつなぐルールづくりを進める。
・ 1次産業に3次産業的な付加価値を付ける。
・ フィリピンの無人島リゾートでは従業員全員が株主である。そこでは、宿泊客に供給する野菜、魚、果実などの食料が必要となる。また従業員の子息のために学校も必要となり、17年かけて8000人の町ができた。

 漁業者の意識は、ダイバー=密漁者である。これに対してダイバー、ダイビング業者は密漁をしないということをアピールしてきた。


 しかし全魚連の調査で明らかになったように、問題の本質は密漁(マイナス要因)ではなく、ダイビングポイントを開放することによる収益(プラス要因)があまり期待できないことにあった。収益が期待できないのに損失が明らかとなれば、否定的な反応になるのは当然である。


 ダイバーから「海は誰のものか」「ダイビングをするのは自由だ」と主張することもできる。しかし、海は誰のものではないのなら、ダイバーのものでもないし、自由というのは他社の不利益にならないことを担保しなければならない。
 地域の管理や環境保全のために必要と思われる適切な経済負担は、ダイバーとしても当然である。


 漁協側に注意する点として、
・ ダイビングに関する収入はあくまで漁業収入のプラスαと考える。
・ あくまでサービス業として利用者本位の対応をする。
・ 宿泊、飲食、就業機会など地域全体のシステムとして評価する。
・ 漁協のみならず、地域全体の合意を形成する。
・ 利益を地元で確保して、継続的に再生産への適切な投資を行う。
・ 漁協自らが責任主体となる覚悟を持つ。
・ 適切なコンサルティングを受ける(実績、経験、有償、中立性、ソフト重視)。
・ コンサルタントに事業委託しない。
・ 現実を無視し過度の期待をしない(限界を知る)。

 上記のルールは、ダイビング事業者のメリットの最大化には必ずしもつながらないが、ダイビングのできる場所の確保が前提である。ダイビング事業を行うノウハウは一朝一夕にして得られるものではない。これは漁業者も同じ。


 海部郡を売り込むのは「営業」+「仕掛け」が必要。営業とは、一軒一軒足で回る地道な活動であるがそれだけに大切。
 それと、何かわくわくするもの(物語=情報発信)が必要。すさみでは、水中ポストを設置し、耐水紙に書いてダイバーが投函する。それをテレビ局の取材を通じて情報発信した。また「洞窟開き」も行った。これは、半年ごとに3か月洞窟を開くもので、テープカットなどのセレモニーを行い、テレビ局に取材を依頼する。
 数年先までの事業計画を考える必要がある。一例として、人が順調に増えた場合のゴミ問題、環境問題まで手当てしておく。


 海部の海を潜ってみて、魚の種類と付着物(珊瑚など)が多いことがわかった。磯焼けが少なく、比較的港の近くでダイビングできるのは大きなメリットだ。ただし、アクセスが悪いため、営業が必要。
 ハワイより遠くて価格も割高な母島では、ダイビングの収入で東京にインフォメーションセンターを設置した。直接訪問者の対応はもちろん、DMや電話、さらには旅行代理店への営業も行う。旅行代理店からコミッションは求められていないが、これはスクーバ事業では一般的な傾向だ。

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松田さんは、同じ海を利用する漁業とダイビングでの海利用のルール作りの必要性を説いている。これまでどのようなデメリットがあるかで判断されてきた双方の関わり合いを「どのようなメリットが生まれるか」について考えてみようというもので、フィリピン、和歌山県、小笠原などの実践を通じて試行錯誤されてきた。

 根底には、持続的に人と海がかかわっていける方法が求められており、そのしくみとして、地元資本の共同会社とその周辺に拡がる地域的な事業体の存在がある。地元主導による地域活性化として、初期投資の少ないダイビングを取り上げているものである。

そうなれば、地域政策上行政がそのコンセプトが活きるよう関わっていくべきであり、そうした結果、獲る漁業から見せる漁業への転換ができる。それは顧客満足度の視点を取り込んだ1.5次産業としての漁業の未来である。
(編集文責/平井吉信)


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