はじめに
公的機関等が民間企業に融資する際の貸付審査業務等に携わり、これまで数百社を見てきましたが、経営指標の判断は経験と場数が必要です。教科書には、指標ごとにその意味と優劣を判断する基準が示されていますが、現場の状況と併せて見ないと判断を誤ります。つまり、ヒアリングと現地訪問が不可欠です。紙の指標を眺めていくつかの仮説を立て、その実証のために現場を訪れるというのが経営指標の正しい使い方です。
その前提に立って、農業経営においていくつかの仮説を立ててみました。
- 一般に農業者の記帳の正確さはバラツキがあり、どちらかというと、税金申告のための計数管理であって、経営判断のための計数管理がなされていません。これは商業・サービスの個人商店も同様かもしれません。いずれにしても、そのままの数値では判断できないことがあります。
- 生産(市場等への出荷)までの農業経営であれば、ここで挙げた大多数の指標は不必要です。生産=農業経営という場合では、経営資本対生産利益率とそれを分けてみた経営資本回転率、売上高対生産利益率を見ることが出発点です。回転率は資本の効率(農業資産に回したお金が有効に使われているか)を判断し、利益率は収益性を判断するものです。この両方を掛けたものが資産利益率は、回転率(効率)と収益性(儲けの度合い)の両面を見ていることになります。
- 資産利益率は大きいほど良いです。2桁なら優良経営でしょう。
- 回転率は高いほど資本効率が良い(投下した資本が有効に活用されている)ことを表します。
- 売上高生産利益率は、収益性の総合的な指標です。それをさらに分解して、売上高対各農業経費を3年間の変化で見ることができます。できれば、部会内で%を比較することは意味があるでしょう。このため、農業改良普及センターが部会内で一定の同一基準で集計し、指標(相対値)を集めていただくのも方法です。
- なお、生産利益は、個人事業所の場合、青色専従者給与は経費として処理し、借入金を払う前の事業者所得を生産利益としています。そのため、専従者給与の設定によって利益の表示が異なってくることに注意してください。法人事業所の場合は、営業利益を生産利益としています。
- 借入金がある場合、売上高対支払利息率は、多くても2〜3%以内に抑えておきたいですね。
- 他業種からの参入(Iターン)や、後継者が生まれるかどうかは、生産性にかかっています。そのための指標が、一人当たり粗利益です。これは絶対額を他業種と比較します。農業が他産業と比べて魅力的に映るためには、5,000千円以上は必要ではないかと考えますが、いかがでしょう。
- 経営指標からは算出されませんが、設備投資において何年で回収できるかという償還期間を求めることは重要です。また一定期間における資本コスト(8%ぐらいを想定します)を割り引いた利益額の合計を足してみて、それと投資金額を比べることも必要です。「隣りが最新型のトラクタを買ったからうちも…」の見栄張り?や、作物の収益性からみれば、生産委託したほうが良い場合でも設備を投入するなど、投資について戦略性を持つ必要があるのではないでしょうか。
- 投資をする場合、法人と個人で計算が異なります。法人事業所の場合は、年間返済額(元金)が当期利益+減価償却費の合計(狭義のキャッシュフロー)の範囲内に収まることを確認しておきましょう。不足すると、どこかでお金を調達するか、人件費や役員報酬の引き下げが必要となります。個人事業所の場合は、キャッシュフローから、事業主の生活費(=給与)相当を差し引いた額が償還財源となります。借入金の年間返済額はその範囲内であることが望ましいですね。
- 高度経済成長時代には、借金をしてでも元手(農業資産=事業規模)を増やし、売上高(=利益)を増やすことでよかったのですが、デフレ時代は、なるべく少ない元手で利益を稼ぐことが望ましいのです。これからは固定資産を持たない経営が有利です。しかし大切な技術やノウハウの部分にはコストを惜しまないことです。以上のように、資金、人材、土地、設備などの限られた経営資源をどこにどれだけ投下することか(=経営戦略)、つまり投資に対してどうすれば見返りが多くなるかという視点が必要です。それが資産利益率が問いかけている意味なのです。
- 農業経営が法人化し、さらに加工、販売までを一貫して行うようになったとき、売掛債務や買掛債務、回転期間や負債返済の安全率、自己資本比率、キャッシュフローなども経営状況を判断する指標となります。
(参考図1〜資産利益率が高い事業所ほど生産利益が高い傾向が伺えます)

- 県内の農業生産者のご協力をいただき、グラフ化したものです。生産利益額は消しています。
- これを見ると、右上がりの直線に相関関係(資産利益率が上がるほど生産利益額=絶対額も増える)が伺える分布となっていますね。
(参考図2〜個々の事業者の経営力の差異が認められる)

- 生産者名は仮名、金額は塗りつぶしています。数字は年度。
- 篠原さん(仮名)のように、少ない投下資本で効率的な生産利益を得ている場合もあれば、木村さん(仮名)、鈴木さん(仮名)のように、投下資本の割にリターン(利益)が少ない事業所も見られますね。
- これは、生産作物、技術力、経営管理力の3つの要素が異なることが原因と考えられますが、どの要素がどれだけ関わっているかは、サンプル数が少ないこと、多変量解析等の統計処理を行っていないことからわかりません。
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