△経営を支援する

ベンチャー企業は徳島の宝

 2001年11月に徳島のベンチャー企業約20社を訪問する機会がありました。そこで気付いたことをまとめてみます。ここでベンチャーとしているのは、中小企業創造的活動促進法に認定された事業所を指しています。徳島県は全国でもっともベンチャー投資が活発な県といわれておりますが、その一端を垣間見た思いです。

ベンチャーの定義

 ベンチャーとはいっても、まったく海のものとも山のものともわからない企業への投資は避けるのが公的機関の宿命だとすれば、ある程度評価が確立した企業や技術を応援するのは仕方ないという感じです。そのためか、ベンチャーなのに担保を要求されることへの疑問や保証人を立てることがむずかしいといった悩みを口にされる経営者もいました。
 事業規模が年商数千万円から数十億円までばらつきがあり、すでに業歴が長い企業もありました。しかし新たな事業領域に社運をかけて進出する場合はベンチャーに含めてよいと考えています。一言でいえば、業歴とは関係なく「過去を守ろうとする」のではなく「未来を創ろうとする」企業がベンチャーなのだとぼくは理解しています。

コア・コンピタンス

 コア・コンピタンスをぼくは「企業力」と呼んでいます。その企業の現在、あるいは未来の利益の源泉となる要素のことで、独自の技術やサービス、製品を生み出すノウハウなどが複合的にひとつのまとまりとなった作用です。
 コア・コンピタンスについては、こんな問いかけを発してみるとわかります。「何をする企業? 何が得意なの? 利益の源泉はなに?」。
 ところが実際は、「当社はあれもできるしこんなこともやっている」と答えられる経営者が少なくないのです。実際に新しい事業、新しい会社を立ち上げたときに、これがやりたい、こんなテーマならいけそうだ、というのがあったはずです。

 しかし試行錯誤していくうちに「こんな研究もおもしろそうだ」という方針転換。「研究開発にはかなりの追加資金が必要だ」という資金面での挫折。研究開発が進捗しても「販売ルートが確保できない」「提携先が見つからない」という販売の問題。仮に事業が順調に拡大したとしても、それを管理するシステムが付いていかず利益が出せない場合などが散見されました。さらには売上が順調に拡大し、管理も順調にこなしている場合でさえ、追加の設備投資の資金をどうするかということ。場合によってはベンチャーキャピタルの支援を得て株式市場への上場を視野に間接市場への資金調達を考える段階に達した企業もありました。

 立地の段階から地域に受け入れられ、地域雇用に貢献してはじめて地域の一員となることができます。さまざまな交渉や接触を通じて地域の企業という信頼感を確立していくのも経営者の大切な仕事です。資金面や経営面では各社施策を活用することが必要です。今回訪問したほとんどのベンチャーの経営者は、創造法認定企業の看板はさほど役には立たなかったが、創造法の認定による投資はありがたかったと言われています。

 行政への評価というか姿勢は二分しています。
 ひとつは、活用できるものを徹底的に活用しよう、あとは自力で開拓しようという姿勢です。そんな企業はやはり順調に伸びているような気がします。
 もうひとつは、行政施策に批判的な意見です。確かに施策は税金を投入するがゆえに、公平性、公共性、客観性を担保しなければならないという特質があります。かゆいところに手が届く応対ができかねるのが行政です。しかし自らの経営方針、経営戦略が揺るぎない信念、「こうでなければならない」というところまで考え抜いたものであれば、施策に振り回されることもなく、また手続きの煩雑さに苦情を言うこともないでしょう。何の労力もなしにお恵みを与えてくれる存在が行政ではないし、あってはならないと思います。


研究開発について

 ベンチャーといえば研究開発です。ひとつは他社との共同研究や産官学の連携があります。これについては、有効に活用している企業もありましたが、その効果については部分的な肯定という評価が多かったようです。
 その理由として、大学の研究は実践向きではないというもので、なかには学生を押しつけられることもあるという否定的な評価もありました。厳密に守秘義務を伴うような研究テーマはやはり自社だけで行うのが妥当という意見も少なくなく、ある企業は、自社のチームで解決するのが技術者魂とまで言われていました。
 しかし個別のテーマについてはそれぞれ工業技術センターなどの公設研究機関を有効に活用しているようです。個別のテーマとは、例えば「○○に影響を与えない接着剤はないか」とか「強度試験の実施」など素材やその応用についてのデータの活用についてです。

大企業にない強み〜小さなテストの繰り返し

 研究開発の中味については、大多数の企業が独自の技術開発を求めてはいるものの、実際には中小企業の手に余るのではないかと思えるテーマも散見されました。それは多用途または基本的な工程に応用できる技術であるため、開発が成功した場合の利益は期待できるが、莫大な研究開発やそれを全国的な市場に発信していくための費用、運転資金が要求されるというものです。
 一方で、大企業から(委託されているまではいかないまでも)研究開発を期待されている企業もありました。大きな組織で新しいことを行うリスク、しかもそれが中心的な事業領域でないのであれば、自ずと中小企業に期待するようになるでしょう。経営資源(ヒト、モノ、カネ)の量が研究開発の成果につながるとは限りません。よくいわれのは、ハイテクを支えているのは町工場のおやじさんたち(腕の立つ職人)という言葉です。人間の磨かれた感覚は機械の精度を越えているのです。大企業では、新たにリスクに挑戦し、しかも試行錯誤を繰り返しながら小さなテストマーケティングを繰り返して致命的な損害を防ぐという実務のカンが欠けている場合が多く、そこに中小企業(=ベンチャー)のチャンスがあるのです。

 中小企業で手を染めてはならない動きがあります。機械をつくっていた企業がそこから生産される製品そのものを販売する場合。または加工賃収入(=技術料)が中心であった企業が設備そのものを売り出す場合。あるいはコペルニクス的な発想の転換によってこれまで基本とされた工程を一新していまうテーマなどです。それらは販売先の開拓や在庫や受発注、販売先管理などのマーケティング費用がかかるし、需要に応える製造を確保するための莫大な運転資金が必要となり、自らの手には負えなくなります。

市場の読み違い(数年で陳腐化)

 もうひとつは、こうして商品化をもくろんで研究開発に着手すると、「ねらっていた市場は意外に小さかった」とか経営者の思いこみであったということも少なくありません。しかしそんなときでも、怪我の功名ともいうべき、また新たなヒントが得られてその技術を応用した別のジャンルにたどり着く場合があります。研究開発に着手するということは、何らかの情報発信を社会に行うということですから、そこにライバルが現れることもあるが、同時に協力者となる者やヒントを与えてくれる者が見つかることもあります。怪我の功名なのかもしれませんが、未来を見据えて積極的に動いたからこそ得られた世界であることを忘れてはならないでしょう。

 次のグラフをご覧ください。各ベンチャー企業の平成8年度から12年度ぐらいまでの総資本経常利益率の推移です。不況といわれながら、ベンチャー企業は平均すると横ばいといったところでしょう。ここで注目すべきは、各社とも数年周期の波が見られることです。統計的な優位性は判定していませんが、直感的には、研究開発が主体となる期間と、それが奏功してその果実を収穫する数年が交互にやってきているのではないでしょうか。一度開発すれば数十年は市場での競合優位を保つことができる技術(もちろんバージョンアップはしていくでしょうが)もなかにはあるのですが、競合が激化し、しかもその速度が早まっている21世紀では、競合優位性が十年も続くことはまれ。だから再び研究開発に注力して次の収穫に備えている---そうしたベンチャーの実態を時系列のなかに見て取ることは飛躍しすぎた見方でしょうか?

今の利益と未来の利益のバランス〜特定の領域での技術的なノウハウの蓄積

 もし自社に数兆円のキャッシュフローがあり、世界中の有能な人材と情報が集まるような企業であれば、自社ですべてを賄うことも考えられなくはないでしょうが、それとて失敗に終わる可能性が高いでしょう。それが大きな組織の弱点です。事業領域を早く確立してそこに経営資源を集中させ、情報発信を行うことで新たな事業機会が見つけられることもあります。なすべきことは数年後に確実に規模縮小を招くような人員削減よりも、未来へ向かっての挑戦です。
 そんなベンチャーの悩みは資金です。研究開発をするにせよ、企業として継続するにせよそこには資金繰りが発生します。きょうの飯(現実)が食えなければ、明日の飯(夢)にありつけるはずがありません。飯を食うためには、なりふり構わず仕事をすることになりますが、そうすると、研究開発どころではなくなるし、何より自社の技術ノウハウが濃縮されず分散してしまうこともありえます。相手先から見て「なんでもできる企業」は早晩見向きもされなくなるでしょう。事業領域を確立するためには、その領域を構成する要因(コアスキル)を見極め、それを磨いていくことが必要となりますが、日銭稼ぎの仕事に振り回されるうちに未来への展望を見失ってしまう。かといって明日の研究開発ばかりでは、事業の存続がむずかしくなる。そのバランスが大切です。

自社の持たない経営資源を補完してくれる提携先

 今の時代、まったく新しい技術は滅多にない、もしあったとしてもそれがそのまま商品化に直接結びつかないでしょう。なかなか世界初という技術は生まれるものではないのです。むしろこれまでに確立した技術の組み合わせることによって生まれることがほとんどではないでしょうか。
 そのきっかけは、自社で「不便な」ことを解決しようと試行錯誤しながら開発してみたという事例が少なくありません。すると必要な情報(技術のリスト)がわかる。それを組み合わせたり連携させたりして新しいアイデアや商品を市場に送り出して成果を収めている企業があります。
 その際に自社にない技術リストは、新たに技術開発するよりその製品(ノウハウ)を買ったほうが早いのです。それを開発した企業はそのテーマを解決すべく数年にわたって自社の人材や資金、ノウハウをつぎ込んで開発したはずであり、あえて回り道して自社開発をする必要はありません。自社の持てる経営資源(人材、資金、設備、ノウハウ、情報)には限りがある点をお忘れなく。 
 研究開発という言葉は、単発的な商品の革新というよりも、複合的なシステムによってもたらされる用途開発が中心となると言い換えてもよいでしょう。

経営品質とISO

 ISO9000シリーズやISO14000シリーズへの意欲を語る経営者がいました。これらのシステムが取引先に求められることがあるでしょうし、共同研究や販売提携などの際に一定の企業の経営品質を担保すると見られることを重視する企業もありました。また環境問題への対応を事業使命として考えておられる経営者もいました。そのことが、製品開発や研究テーマにはっきりと反映されています。こうしてみると、ベンチャー企業は徳島の宝です。
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