無形の資産が勝敗を分ける〜ソフトに価値あり


 モノ余りの現代、平均的な年収の家庭に「ないモノ」はないのではないかと思える。売れているのはデジタル家電で製品ライフサイクルの成長期にさしかかった商品。

 モノが足りなかった高度経済成長期、作れば(並べれば)売れた時代に、効率的に供給しよう、売り場のモノさばきを良くしようとしたのがマーケティングの4Pであり、店舗診断である。

 マーケティングの4Pとは、価格、流通、商品、販促を組み合わせて効率よく不特定多数の人にモノを供給するという「売り手」発想。

 店舗診断とは、業種の概要を把握したうえで、外装、駐車場、立地(地域性、商圏、人口、地理、通行量)の分析に始まり、店内に入ってはレイアウト、通路幅、什器、ディスプレイ、POP、照明、客とスタッフの動線、清掃、営業時間、品揃えなど売り場を診る。ここ数年は、匂いや音、触感、色など五感を大切にした店づくりが求められているし、そこに敏感にならなければ女性客の支持は得られない。店舗構築の拠り所となるのが店舗運営方針(経営理念)であるが、それがない場合は、その店舗における「あるべき姿」を描き、現実とのギャップを実現可能な範囲で埋めていく。

 ギャップといえば、人口が増えている県内のとある町で生活者500人に町内商店街のアンケートを行ったところ店主と生活者の意識の違いが見られた。例えば、経営者は「駐車場がないこと」を上位3つの理由のひとつに挙げたが、地域の生活者は駐車場の項目は重視しない代わりに「買わずに出にくい」という項目を挙げた。

 今日のマーケティングは、「独自の土俵をつくる」「顧客コミュニケーション」のふたつの要素が中心。つまり、モノ、サービス、あるいは経営姿勢で独自性を持ち、指名買いされることで価格競争にまきこまれずに短期的な利益を確保する。さらに顧客とのやりとりを通じてファンになってもらうコミュニケーション戦略で長期的な利益につなげるというもの。

 いかに供給するかが1980年代頃までの考え方とすれば、90年代では顧客の「買う」という行動、心理に焦点を当て、なぜその店に入るのか(売り場へ行くのか)、どうすればその商品を手にとってもらえるか、買いやすいかなど顧客の立場、心理面からみることが主流となった。「買い場」はそれを象徴する言葉だ。

 90年代にはパソコンと携帯電話は珍しかったから売れた。しかし2000年に入ってそれらの商品は成熟期に入った。モノ余り、デフレ経済下で「モノが売れなくなった」といわれる一方で、製品ライフサイクルに関係なく棚に並べるそばから売れていく店があり、業界のなかで不況知らずという企業もある。だから「不要なモノが売れなくなった」と言い換えるべきだろう。

 並べて選んでもらうカタログ販売的な売り方(豊富な品揃えで幻覚させる)は過去の手法。不要なモノは売れないのだから、必要だと思ってもらうよう説得して売ることが不可欠。21世紀の店舗は、顧客から見た価値のプレゼンテーションの場と捉えたい。

 日本経営品質賞というのがある。その枠組みは以下のようになっている。経営品質をかたちづくるのは、資本金やキャッシュフロー、従業員数、商品点数、店舗数、売り場面積といったモノやカネではなく、ノウハウ、意思疎通、情報共有と活用のしくみといった目に見えないソフトであるという点。サウスウェスト航空やリコーが導入して成果を出している「バランススコアカード」という手法は、個人事業所や中小企業でも使える考え方で日常のコンサルティングで常用しているが、これも経営品質と同様の考え方だ。


(2003年度日本経営品質賞審査基準のフレームワーク/経営品質協議会資料)


(アメリカ、バランスドスコアカード研究所Webサイトから)

 「ビジョナリーカンパニー2」という本に感銘を受けたが、著者は適切な人材をバスに載せることから始まるとしている。つまり、最初に人を選んでその人たちに目的や方向は任せるということ。理念や目的よりも適切な人材が先に来るという考え方であるが、実務的には頷ける。適切な人材ならば管理を強化することなく、動機付けに苦労することなく、自らの熱意と創意工夫で動いてくれる。人材の飽和感があるなかで人材不足と答える企業が経営課題の上位を占めるという調査結果もある。人材が大切なのではなく「適切な人材」こそが重要なのだ。
 
 有形の経営資産ではなく無形の経営資産が成否を分けるようになったことは確実である。感覚的には目に見える資産が2割、目に見えない資産が8割ぐらいで業績に結びつくのではないかと思われる。その背景には、心の時代、モノ余り、スローライフ、環境対応、少子高齢化、年収300万円時代などのキーワードがある。

 無形のソフトを創造するのが中小企業診断士の仕事。仕事の内容(価値創造)と資格名のギャップ(診断する→欠点をあげつらう)を感じるこの頃である。みなさんとともに創造していきたい。 

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