渓の早春賦

魚を釣るのだけが目的ではなく、
山の懐に抱かれ
水音に浸りながら
ただ無心に見えない魚と戯れる。

だからある人は「山釣り」と呼んだ。
季節の訪れを感じながら川面に揺れる陽光が踊る三月のアメゴ釣りほどわくわくするものはない。

でも仕事が多忙となってからここ数年
春の渓に足を踏み入れていない。

あのタラノメ、あそこの岩に生えているコケはだいじょうぶかな。
小さなアメゴは大きくなったかな?

川はヤ行の瀬音で転がり、ぼくは岩場を飛び降りて砂利の足音を響かせた。

山里の春。

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