アウトドアで使うクルマ〜モノより思い出?
 アウトドアといえば、河原をばりばりと音を立てて走る重戦車のような巨漢4WDが思い浮かぶ。しかし嵐のときに河原でキャンプをしたことがある人ならわかると思うけど、奔流となって押し寄せる茶色の水。そんな自然の猛威の前では、ヘビーディーティーなクルマであってもひとたまりもない。
 ヒグラシの声に浸ることのなんともいえない気分のときに、黒色の排気ガスやエンジンの振動音は似合わない。
 自然の懐に入っていくときに、大量の石油を消費する低燃費クルマで行くのか、発ガン物質を吹き上げるディーゼルエンジンで行くのか、途中のドライブを劣悪な乗り心地やハンドリングで進むのか、その判断が選択の分かれ目。
 10数年乗り続けたゴルフ(ゴルフU型)はシートが絶妙だった。どこまで行っても疲れない座り心地。堅めだけどしっかりと路面を受け止め、しっかりと止まるブレーキ。ゴルフバッグが4個収納できるトランクがあるのに全長4メートル弱。まさにゴルフマジックだった。

 ディーゼル車、巨漢SUV、ミニバン、大型ワゴンは日本の風土に似合わない。何を選ぶかは人それぞれ。アウトドアファッションに身を包んで、野外宴会を楽しむのなら何でもいいけれど。しかし自然で遊はせてもらう以上、自然に対する礼儀は必要。その影響を小さくする義務はある。

 ぼくならこんなクルマを選びたい。

 日常生活のほとんどは整備された道路である。アウトドアであっても大半が快適なアスファルトであることなどから普通車がいい。それでは林道が走れないとの声が聞こえてくるが、車重がさほど重くなければ、轍の凸部にどちらか一方の車輪を載せるコース取りと、ブレーキとアクセルワークで車体の浮き沈みを意識的にコントロールすれば、日本の林道の大半は通れる。ぼくは、ワーゲンゴルフを10数年、それからマーチも乗ったが、たいていの林道はクルマにダメージを与えることなく走れる。もし通れないと判断したら、そこでクルマを置いて歩けばいい。なにがなんでもクルマで目的地の最終場面にまで行かなければならないことはない。歩く道の途中でタラノメが出ているかもしれないし、森から降りてくる風をほほに受けるのもまたさわやか。

 河原であっても普通車は通れる。本来河原には、生き物たちの営みの場である。そんな場所に無遠慮に踏み入れるとどうなるか。河原であってもクルマが常時通るところに巣を作る野鳥はいないが、滅多に通らないところはどうだろう。知らず知らずいのちを奪うことに、河原を縦横無尽に走る4WDユーザーは思いをはせないのだろうか。海、山、川で遊ぶのが大好きなぼくだけど、「趣味はアウトドアです」というのがためらわれるのは、同類に思われたくないから。

 狭い道が論理的でなく交錯している日本の風景では道を間違えることはありうる。大型車は旋回するのに手こずるが、少し脇道に入っても小さなクルマは小回りがきく。なにより、いい流れを見つけたから、珍しい鳥の鳴き声を聞いたから、里山で雰囲気のある脇道を見つけたからとしばしクルマを脇に置いても邪魔なりにくいサイズがいい。全長4.5メートル、全幅1.7メートル以内がひとつの目安となるように思う。

 具体的にクルマを選んでみる。

◇カローラフィールダー

[良い点]
 実用燃費がよく、車体が取り回ししやすい。荷物が積みやすいが人間の空間も犠牲にされることなく広い。ドアの締まる精度は高くその開け閉めが楽。運転がしやすいこととあいまって1日に数百キロメートルの長距離運転でも疲れないはず。ここに挙げた4種類のなかでは長時間使用における信頼性はもっとも高い。同じクルマに長く乗ることはエネルギーの社会コストの面で理にかなっている。
[欠点]
 Aピラーの傾斜角が急で、フロントガラスが目前に迫ってくる。これは空力や燃費のためと説明されているが、実際はデザインを重視したため、実用性にしわ寄せが来ている。運転感覚については、1.5の電動パワステの感覚は雲を掴むようでわかりにくい。切り始めが重く、少し力を入れなければならないが、切れ始めると一気に軽くなり車体が急激に向きを変える。これは大衆車とはいえ危ない。微妙なコーナーをトレースすることは不可能。この点においては、ぜひ仕様改良を望みたい。またフットレストがオプションでも用意されていない(1.8は標準装備)。
 自慢の白いシルエットメーターが(輝度を抑えても)夜間走行で目が疲れる。通常のメーターが選べればよいのだが。排ガス性能が物足りないが、この秋の変更で超低排出レベルに改善される予定。もっと実用性に徹すればさらにアウトドアを楽しめるクルマになると思うのだが。1.8はオーバースペックだが、前述の不満は解消される。

◇インプレッサ1500
[良い点]
 インプレッサは走り屋のクルマと思われているが、1500の完成度は高くしかも値段は手頃。低速トルクを使う街乗り運転では2000とほとんど体感加速は変わらない。足回りのしっかり感、安定感は中高速コーナーでわかりやすい操舵感となって運転を載せてくれる。以前のインプレッサと違って静粛性は高く、人によってはエンジンがかかっているのかと聞くほど。ブレーキはやや弱い感じがする。フロントガラスの傾斜は圧迫感がなく、しかもクルマの四隅が掴みやすい。その意味で能動的な安全性は高い。全長4.4メートルのクルマにしては、ヴィッツクラスのように操縦できる。これはレガシーにも共通するスバル車の美点だ。
 なによりもこのクルマが良いところは、軽くしかもリニアな感覚のハンドルだ。切り始めから切り終わるまでその感覚は変わらないし、また乗り心地が締まっていてそれでいてやわらかい。
[欠点]
 後端が下がっているシートは、形状そのものはフィット感があって悪くないし、背中全体で体重を支えるので腰痛の人には負担が少ない。けれど、やや身体が後ろに寝るので首に負担が来る場合もある。しかしスポーツモデルのシートと違って1.5のシートは実用性が高い。乗る時間が長くなればこのシートは肯定される場合が多いだろう。
 トランクの大きさは、ハッチゲートの角度が寝ているため犠牲になっている。オートマチックとエンジンの相性からかゼロからの加速がややもたつく。レガシーという選択もありえるが、車体が大きくなるので目的による。実用燃費はカローラには及ばないが悪くはない。

◇ヴィッツ
[良い点]
 山登りが中心の人なら道具をそれほど積まないので、長距離で疲れにくい乗り心地とシート。なにより低燃費と小回りがきくこと。さらにきびきびしいハンドリングの楽しみがあるからヴィッツをすすめたい。地球環境にローインパクトであることの気分の良さからアウトドアには向いている。センターメーターも見やすい。
 同クラスでは、かつてぼくも乗っていたが日産のマーチも悪くない。長距離走行には、シートとペダルとハンドルの位置関係がモノをいうが、その辺りがマーチは絶妙でヴィッツに対しても優位にある。
[欠点]
 これといってないが、荷室が狭いので後席を倒して使うことが前提。後席乗車は諦めなければならない。それと前の車幅が掴みにくい。いつのまにか女性のクルマというイメージができてしまったが、優れた基本性能なのでそうしたイメージを払拭するマーケティングをトヨタは展開して欲しい。

◇プリウス
[良い点]
 意外にもアウトドアに最適のクルマのひとつ。電気とガソリンのハイブリッドによる環境性能や1000キロ程度という長い巡航距離はもちろん、クルマそのものの基本性能が高い。デザインは先進的であるが、運転席はどこまでも快適で実用性はカローラより高い。シートはフランス車のようなかけ心地で大衆車でこれ以上いいシートを知らない。ひとたび加速に向かえば、大衆車では敵なし。プリウスというと加速が悪いというイメージがあるかもしれないが、1.2トンの車重を3リットルクラスのガソリンエンジンのトルク(出力は電気モーター)で動かすのだから悪いはずがない。実際に高速道路のランプウェイでターボのような加速で本線に乗るプリウスを見たことがある。この8月に小改良されて、実用燃費は軽く20キロメートルを越えるようになったと思われる。トランクは400リットル程度だが、アリオンやカローラセダンより底が深く開口部も広いため使いやすい。
[欠点]
 山道などで電気を使いすぎたらどうなるかを考えてしまうが、プリウスの電気系統や制御ソフトのアルゴリズムはどんどん進歩しているので今の型番にはそんな心配は少なくなったと思う。あとは不幸にして川に転落したときの電気系統による感電のおそれなど。最低地上高がやや低めなので悪路走行には注意が必要。極限状態以外は問題がない。高速道路も快適に走れる。



 日本の山里の路を行くには、大型4駆やミニバンは不向きというのが正直な実感。メーカーのマーケティングに踊らされて買ったものの、舗装路での乗り心地や燃費、取り回しの悪さに悩まされ、その用途は主婦が近所の買い物に乗っていくというのがこれらのクルマの実態ではなかろうか。大人数を載せる必要があるとしても、それは滅多にないはずなのでレンタカーで間に合わせるのも一案。
 ぼくの価値判断を押しつけるつもりはないけれど、自然で遊ばせてもらうのなら必要な配慮はあると思うし、無駄な買い物をしないためにも理性的な判断が求められる。見栄にお金をかけるよりも、ひぐらしやせせらぎに五感を預けたり、訪問先の地域の人たちと歓談したりする時間を大切にしたい。
 日本の自然は人の暮らしと密接にかかわりながらも、繊細かつ濃厚に訪問者を癒してくれるのだから。