| 夏川りみの「沖縄の風」 夏川りみが、これまでにうたった沖縄に関係する歌を集めた「沖縄の風」というアルバムを聴いてみた。 新録の「海の彼方」がうちなー言葉のアップテンポの曲。あっ、うきうきする。沖縄の果実を一筆書きにしたような絞りたての新鮮感。びゅんとまっすぐに投げ込まれた初々しさがまぶしい。 この曲は、好きな人に寄せる想いが海に溶けあう憧れをうたったものだが、間接的には島(沖縄)が好き、生まれたところが好きというメッセージを込めたものだと思う。 自然と暮らしの一体感がなくなった本土では金太郎飴のような無個性の地域づくりを行い、さらにそこに生まれた人たちが都市をめざして出て行った。あとには何が残る? (ぼくは空と海に彩られた四国を再創造したいと思っているのだけれど…)。 根っこのない曲、根っこのない歌い手がひとを楽しませることはありえない。根っことは、「あるもの」を探して光を当てることであり、その実在感が原動力となり、やがては普遍性に高まっていく。もっとそれぞれの地域が試行錯誤しながら百花繚乱の集合が日本となるとき、個性と違いを認め合う新しい国が生まれるのではないか。ひとつの音楽から未来が見える。 夏川りみといえば、「涙そうそう」のしっとりと歌い上げる印象を持つ人も少なくないが、「海の彼方」では八重山言葉を早いリズムに乗せて楽しんでいる。そこにうねりがある。彼女が歌うと真珠のような輝きが付加されるのは、歌をぷつぷつ切ることなく長い呼吸でうたうからだ。打ち寄せる波(節回し)の良さ、それでいて潮通しの良さ(息の長いフレージング)。――天性の歌姫ではないか。 沖縄で人気のある「満天の星」もすばらしい。一見地味だが誰が歌っても歌い手を気持ちよくさせる媚薬のような楽曲。自分でうたってごらん。 満天の星の下で愛しい人が吹く笛の音色を聴いているという幻想的な場面。最初は頭上でまたたく天の川が島影に横たわるまでのふたりが共有する幸福な時の移ろいを描く。そしてふたりの睦み合いが高まってたどりついた船という暗示。そんなおだやかで確かな感覚、包まれるような幸福感を編曲で表現したのが京田誠一だ。 シンセサイザーがたゆたいながら始まり、久しぶりのふたりの恥じらいやときめきを感じさせる。笛の音色は心のなかで響き渡り、徐々に楽器が加わって厚みを増していく編曲が距離を縮めるふたりの心を映す。そして四度目の「ぬくぬくとぅ思いや満天ぬ星よ」の下降音程で初めて寄り添うキーボードが隠し味となって、ひとつに溶け合う絶頂感を感じさせる。ふたりを包み込む自然も讃えながら四分半で描かれる歌絵巻「満天の星」をじっくりと聴いて欲しい。 「イラヨイ月夜浜」は、アルバム「南風」にも収録されていたもので、月夜の浜を照らす月の光に、すべての人たち(土地)の幸福を願ったものと思う。楽曲は白保出身の歌者、大島保克によるもの。アルバム「島時間)では、島に寄せる想いを詩人のような繊細な感性で聴かせてくれる。喜納昌吉の「花」や「ちゅらさん」を見て感じるのだが、愛や平和を普遍的にうたえる感性は、沖縄出身の歌手でないと歌えなくなったのだろうか。内地の人よ、取り戻せ、魂の輝きを。 「島々清しゃ」や「ファムレウタ」もいまの沖縄からのメッセージだ。「ファムレウタ」は、白保出身の新良幸人の十八番の曲。ぜひ一度生で聴いてみたい。この世のものとも思われない美しい八重山民謡「月ぬ美しゃ」が収録されていないが、これは同時発売のDVDに収録されている。その幻想的な編曲と可憐な八重山言葉の歌詞と相まって魂が遠くに連れ去られるようだ。 「芭蕉布」に初めて接したのはNHKの名曲アルバムだった。「なんといい曲なんだろう」と曲名を書きとめた。 「芭蕉布」は、歌の抑揚が独特だ。固有名詞は沖縄の言葉だが、語りかけは「やまとぐち」だ。けれど文章の抑揚と音程の動き、音階、シンコペーション風のゆったりとしたリズムは内地のそれと違うように思える。――この曲を何度も口ずさむ。 数百年の伝統を持つ芭蕉布は、沖縄の人々の心の拠りどころなのかもしれない。芭蕉布の歌詞は琉球王朝や上納制度に触れている。ひと口に沖縄といっても島々を隔てる距離は遠く、歴史を背負う風土は異なる。例えばかつて人頭税にあえいだ八重山や宮古の人たちはこの歌をどう受け止めるかわからない。しかし過去は過去(未だに琉球王朝に憾みありなどと言う人がいるとは思えないが)。捨てればおしまい。未来を見ればいい。歴史を見つめてきた芭蕉布は静かにそして誇らしげに微笑んでいるようだ。 まだまだ沖縄や八重山出身のアーティストの楽曲を内地人は知る機会が少ない。どんどん紹介して新鮮な驚きをもたらしてほしい。「沖縄の風」というアルバムは、「沖縄はよく知らない」「夏川りみは初めて」という人がさらっと聴いてもいい。けれど細部を聞きながら歌に委ねてみると、内なる小宇宙が水紋を拡げていく。 白砂の舗道、シーサーと赤レンガのまちなみ、海辺のネコ。ジャケット写真では、竹富島にたたずむりみちゃんの横顔がいい。あなたもぜひ八重山を訪れてみては。 四月のとある日、石垣島から西表島へ渡る高速船のなかで、りみちゃんそっくりの地元の女性を見かけた。そうか、夏川りみは、八重山にたくさんいるんだと思いつつ、その姿を心に刻んだ。 ![]() 『沖縄の風』 2004年2月25日発売 VICL-61301/\2,381(税抜)/CDアルバム (2004年5月19日) ▲戻る |
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