真夏の夜の夢、秋の夜長のピアノ協奏曲
「メンデルスゾーンの真夏の夜の夢」

メンデルスゾーンは幸福な作曲家だったといわれる。そのことは彼が残した楽曲を聞けば頷ける。ぼくはメンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」が好きだ。しばらく聴かないと、「あっ、聴きたい」と思う。

この曲集で有名なのは、「結婚行進曲」だが、ぼくが好きなのは、「序曲」。これから始まる物語の前奏となる曲だが、全曲通さずにこの曲だけ聴くことも多い。


MCカートリッジ(デンオンとテクニカ)を付けたヤマハの重量級DDターンテーブル。写真のように金属性シートとスタビライザーの使用で音の抜けが俄然よくなる。でももしかしたら大切に使っていただける人に手放すかもしれない。一度ベルトドライブのターンテーブルを使ってみたいから。


レコードは、オランダ・フィリップスのプレヴィン指揮のウィーンフィルと英デッカのデュトワ指揮のモントリオール響を持っている。いずれもいい演奏。幻想的なイラストのジャケットもいい。

プレヴィンは、ウィーンフィルを鳴らしきった充実感に身を任せる。よく歌うウィーンの弦、なによりも魅惑的なウィーンならではの木管がすべて。どっしりした木質の質感は、この曲の良さを余すことなく伝えている。

それに対して、デュトワは早めのテンポで音楽が生き物のような精妙に息づく。ピアニシモの繊細な響き、それからフォルティシモに飛び移るときの颯爽とした何気なさ。一見無機的に見えて微妙なテンポの揺らぎ。妖精の舞踏のような音楽のときめきとしなやかさ。序曲が終わると、また最初に針を落としてしまうのはぼくだけだろうか。できれば、CDではなく、含みと実在感のあるアナログレコードで聴きたい。

デュトワは、ラヴェルやドビューシーもすばらしい。音楽の鼓動が聞こえてきそうな新鮮な響きでフランス音楽やラテンの音楽には欠かせない指揮者だ。

メンデルスゾーン「真夏の夜の夢」
☆アンドレ・プレヴィン指揮ウィーンフィル(入手困難)
シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団


小型だけど密度が濃い。弾むように声の温もりを伝えるHMVビクターのプリメイン。

「ラフマニノフ ピアノ協奏曲第二番」

20代前半の頃、5つ年下の女の子を好きになった。夜に紛れて窓に映る彼女の姿を見ていると、窓の下で小夜曲(セレナーデ)を歌う中世の騎士のような気分になる。

彼女のことを思う夜に必ず聴いていたのが、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。もっともロマンティックなクラシックの曲を選べと言われたら、この曲を選ぶ人は少なくないだろう。特に第2楽章は絶品だ。胸をかきむしられるような切なさがピアノで綿々と綴られる。

レコードは、リヒテル(リンク先はCD)。ロシアのピアニストで風貌は冴えているとはいえないが、この曲をこんなにも濃く弾いてくれると、何も言えなくなる。

スピーカーはHMVの銘機、アフリカ産マホガニーのムク材が使われた最初で最後のシリーズ。叩くと楽器のように響く。そこに取り付けられた絹のソフトドームのツィーター、ドイツ・クルトミューラーの針葉樹の紙ウーファーは、極上の音楽を奏でる。夜中に小音量で聴く。朝起きたときにさりげなく聴く。

録音が新しくて管弦楽のスケールが大きいのがアシュケナージとハイティンクの盤だ。第二楽章の結びでオケが盛り上がる場面など、ひたひたと押し寄せてくる。録音も鮮明だ。

だけど、この曲はリヒテル盤。薄味を豪華な皿に持った感のあるアシュケナージ盤に対して、こちらは寂しさも切なさも情感に身をゆだねられるから。

ラフマニノフ ピアノ協奏曲 第二番
☆ リヒテル ヴィスロツキ/ワルシャワフィルハーモニー管弦楽団
☆ アシュケナージ ハイティンク/アムステルダムコンセルトヘボウ