誰も訪れない海が見える丘〜小神子から大神子にかけての段丘にある知られざる湿地
 徳島市と小松島市の間に大神子(おおみこ)と小神子(こみこ)という入り江がある。どちらも交通の便の悪いところだ。とはいえ大神子はテニスコートが十数面あってバーベキューのできる施設も備え、開けたイメージ。
 一方小神子は静かな別荘地。小神子へ通じる道はわずかに一本。細い山越えの道を通じて小松島港の北にある元根井集落とつながっているのみ。(写真は元根井集落から見た灯台。この下を抜けてしばらく行くと分岐がある)

 大神子と小神子の間にはいくつか渚があるが、特に名前が付いていない。海岸伝いに行くことはできそうだ。しかしあえて山から行ってみたい。海沿いに行けば、塩の干満によって戻れなくなることがありそうだから。

 日の峰山の東にある尾根をめざして、小松島港の北にある漁村集落の元根井から昇り始める。やがて灯台に達し、なおも進むと分岐点。そこを下っていくと小神子集落へと向かう。しかしそのまま降りずに、小神子集落の手前で合流したトラバース道(等高線に平行の道)と出会い、ほとんど高低差のない道を進む。季節柄、それほど草は繁茂していないが、春から夏にかけてはとうてい近づけそうにない。それほどひっつき虫が多い。

 ほとんどヒトが歩いた形跡はない。しかし昔に集落があったことは所々の石垣跡から窺うことができる。おそらく昭和初期ぐらいまでは集落があったのか。あるいはもっと前にすたれてしまったのか。とにかくほとんどのヒトが知らない道。

 道は海の上百メートル前後を平行に走っている。海側は歩きやすそうな海岸性照葉樹の森。ところどころに竹林があるのは、この近辺にヒトが住んでいた証拠。
 自然度は高い。どんどん進むと、歩き始めて半時間ばかりでちらっと渚が見えた。降りていくことはできそうである。しかしそのまま平行に進む。やがて沢がトラバース道を横切る。その先でトラバース道は終わり、沢をまくように海岸へ向かって降りているようだ。その道をたどった。

 沢は澄んでいた。沢はやがて森が開けたところにある湿地帯へと流れ込んでいる。テニスコート3面ぐらいの広さの広さか。ここで川は消えた。

 しかし海までの距離は相当ある。しかも崖になっているよう。ふかふかの湿地を歩いていると、突然崖へ吸い込まれそうな怖さ。海岸段丘上の湿地みたいである。

 ということは、この水が海へ落ちるところは滝となっていることだろう。いつか発見したい。誰も知らない入り江の段丘にある湿地帯の秘密。地元の新聞にも書かれたことがない。

 地図を見ると、2つの都市にはさまれた人のほとんど入らない海の見える丘(崖)。県外の人からみれば、大神子(おおみこ)、小神子(こみこ)という地名は不思議だろうな。しかも小神子の先端(「通り魔」と呼ばれている)付近の海底には、大昔に地震で沈んだ鳥居があるという伝説がある。これまでに何人かのダイバーが探索してなにかの成果を得ているという。

 小神子から大神子にかけての海岸段丘上は無人の散策路が細々と続いている。どこかに迷い込んだみたいに不思議な気分が味わえるから徳島の人は行ってみては。