壊れたコーヒーメーカー、買い足すべきか、部品を発注すべきか?
コーヒーメーカーの一つの盲点は、抽出したコーヒーを受けるガラス(強化ガラス製が多いが)である。洗っているとき、あるいは落っことしたりして割れてしまう場合が少なくない。

コーヒーメーカーという機械には、人数分の水を入れておくと、そこから管を通して温められ、フィルターと挽いた豆を入れておくすり鉢状の容器に上から少しずつ湯が落とされ、下のガラス容器に受けるとともに、水滴となって冷めた湯の温度を再加熱し維持するためのヒーターがガラス容器の下にあるという構造が一般的である。

そうした場合にガラス容器だけを購入しようとすると割高になる。あるディスカウント商法の電気店で買ったN社製(一流家電メーカー,1980円)のガラスが割れたので、購入店で取り寄せてもらおうとすると、部品価格は1500円であった。大量入荷の特定商品だけが安いというディスカウント店の流通構造からすると当然かもしれないが、何となくしっくりこない。

母いわく「M社製の製品がガラス容器とほとんど変わらぬ値段で売られている」。妹がさらに拍車をかける。「業務用ではM社の製品をよく見かける。どうせなら新しいもの一式を買っておくべきだ」

しかし、ガラス容器が破損した以外はまだまだ使えるN社のコーヒーメーカーはどうなるのだろう。簡単な構造の家電なので、少なくともあと10年は使えるはずである。ところがガラス容器を失ったコーヒーメーカーは単なるガラクタである。それでも捨てるのは惜しいし、保管しておくにも場所をとる。

代替案の経済的検討においてはどうだろう。企業が設備投資を行う際に行うことであるが、このコーヒーメーカーを例にとって考えてみよう。

・N社のコーヒーメーカー(新品時一九八〇円)を使いつづける場合
 この場合の追加費用は、新しいガラス容器(1500円)だけである。
 
・M社のコーヒーメーカーに変える場合
 新品一式で1980円
 さらに、N社のコーヒーメーカーを処分する場合は、この製品が焼却ないし分解されることによる環境負荷が社会コストである。N社のコーヒーメーカーを保管しておく場合、保管コストも加わる。
東京のような地価の高いところではコーヒーメーカーといえども保管コスがかかる。本来置けるはずのものが置けなくなるという機会損失も加わる。

税金に詳しい人なら、減価償却費や償却損が考慮されていないではないかと思うかもしれない。償却損というのは、まだまだ使えるN社製を廃棄することで、製品の残存価値(購入価額から減価償却累積額を引いたもの)がコストであるというだろう。

しかしこの費用は特殊原価における埋没コストなので、考慮に入れる必要がないのである。わかりやすく言えば、すでに支払ったN社製品の1980円は、部品を買い足そうと、新品に買い換えようと代替案の検討に無関係な費用となっているということである。

納得のいかない人のために数字を挙げる。

◆N社製品を原価に算入する場合

 ・部品買い足しの場合の支払った金額の総合計は、
   1980+1500=3280(円)
 ・買換えの場合の支払った金額の総合計は、
   1980+1980=3960円)

  この計算では買い足すほうが、四八〇円の節約である。

◆ N社製品を原価に算入しない場合(これからどれだけ追金するかを計算する場合)
 ・部品買い足しの場合
   1500(円)
 ・買換えの場合
   1980(円)

   この計算でも買い足すほうが、480円の節約となって結果は同じである。

 つまり最初にN社製品を買った1980円は、代替案の比較に際して無視してよいことがわかる。


▲戻る