日本一低い自然の山の山開き(弁天山)
 徳島市南部の田園地帯にそびえる弁天山の標高は6.1メートル。2002年6月1日にはその標高にちなんで初の山開きを行った。ここは国土地理院の職員が調査し、自然の山では日本一低いとした山。それを受けて地元では平成10年に弁天山保存会(井上武会長)が結成された。なんでも源平合戦の頃は、海に浮かぶ一本松の小島であったらしい。

 テープカットを待ちわびた地元の子どもたちが列をつくって少しずつ上がっていく(山頂は八畳ほどの広さしかない)。見回すと地元の人がほとんど。しんがりに近いぼくの順番は690番。この日は約七〇〇が登山認定証をもらったことになる。

 赤い鳥居をくぐり抜けると山頂までは登山道が整備されており、道に迷う心配(?)はない。はずむ息で10歩上がると尾根にたどりつき、右へ曲がって数歩で頂上となる。山域は樹木や草木に覆われているが、松の切り株がある八合目には岩盤が露出し、森林限界を越えた山域の様相---これは明らかに山登りだ。頂上には安芸の厳島神社から分祀した弁財天が祀られている。

 この山にはかつて天に突き抜けるようにそびえる老松があった。しかしマツクイムシに病んで昭和55年に切り倒された。遠くを見つめるようなまなざしで「なつかしいわ」とおばさんがひとりごと。農作業のお昼を松の木陰で食べたのだ。「この辺まで松の影になったんとちゃうで」と山裾のはるか外を指し示す。「早く来ていい場所を取らないかん。柳ごおりに弁当を入れてせっせと通ったもんよ」と話に割って入ったおじさん。人をつないだ弁天山の松は切り株となった今も横たわる。

 たかだか6.1メートルといえども、田んぼのなかにぽつんと突きだしているので高度感がある。田んぼを吹き抜ける初夏の風。若い女性が「気持ちいい」と目を閉じた。周囲を散策すれば、山から流れる用水は水量が多く、田んぼには、タニシ、オタマジャクシがたくさんいる。6〜7月の夜はホタルが飛び交うここは里山ビオトープ。

 希望者には山頂で結婚式も企画する。日本一低い山から人生を始めれば、あとは上がるばかりだとか。どこが日本一であってもいい。日本一はそれを見ようとする人の心のなかにあるのだから。

(写真を近日中に掲載します。お楽しみに!)